研究開発税制の見直し

速報 2026年度(令和8年度)税制改正解説

1. 改正の概要

研究開発投資促進と国際競争力あるイノベーション環境の確保の観点から次の見直しが行われる。

(1)戦略技術領域型に関する新制度の創設
(2)一般試験研究費の額に係る税額控除制度の見直し
(3)中小企業技術基盤強化税制の見直し
(4)オープンイノベーション型に係る税額控除制度の見直し
(5)海外委託試験研究費について一定の制限を設定

 

(参考)研究開発税制の制度概要

研究開発投資を行った法人が、その事業年度において損金の額に算入する試験研究費の額がある場合に、その試験研究費の額の一定割合の金額を、その事業年度の法人税額から控除することを認める制度である。

税額控除額は次のいずれか少ない金額
① 試験研究費×一定割合 控除率
② 法人税額×一定割合 控除上限額

【 用語の説明 】

  • 増減試験研究費割合=増減試験研究費の額÷比較試験研究費
  • 増減試験研究費の額=試験研究費の額-比較試験研究費
  • 比較試験研究費=過去3年間の試験研究費の額の平均額
  • 試験研究費割合=試験研究費の額÷平均売上金額
  • 平均売上金額=当期と過去3年間の売上高の平均額

 

研究開発税制の全体像

研究開発税制は、『一般型』『中小企業基盤強化税制』『オープンイノベーション型』の3つの制度に加え、新たに『戦略技術領域型』が創設され4つの制度で構成される。

 

(1) 戦略技術領域型に関する新制度の創設

AI・量子・バイオ等、国家としての戦略技術分野の試験研究を促進する観点から、新たに「戦略技術領域型」を創設し、国が認定する研究計画について、既存の研究開発税制と別枠の税額控除率を設定する。

 

制度の概要は以下の通りである

適用対象者及び要件 ① 青色申告書を提出する法人
② 産業技術力強化法の重点研究開発計画(仮称)について認定を受けること
試験研究費の額 重点産業技術試験研究費の額(※1)
(一般試験研究費の額に係る税額控除制度、中小企業技術基盤強化税制及び特別試験研究費の額に係る税額控除制度の適用を受ける場合のその適用を受ける金額を除く。)
対象期間 産業技術力強化法の重点研究開発計画の認定の日以後5年を経過する日又は計画期間終了日のいずれか早い日までの期間内の日を含む各事業年度
税制措置(税額控除) 重点産業技術試験研究費の額×40%
(特別重点産業技術試験研究費の額(※2)の場合は50%)

(注)当期の法人税額の10%を上限とし、控除限度超過額は3年間の繰越しができる(※3)

(※1)認定研究開発法人が、適用期間内において支出するその認定に係る重点研究開発計画に従って行う特定重点研究開発(※4)に係る試験研究費の額をいう。
(※2)重点産業技術試験研究費の額のうち産業技術力強化法の重点産業技術共同研究開発機関(仮称)と共同して行う試験研究又は重点産業技術共同研究開発機関に委託する試験研究に係るものをいう。
(※3)税額控除の限度額を超える金額については、3年間の繰越し(繰越税額控除の適用を受けようとする事業年度において試験研究費の額が前期の試験研究費の額を超える場合に限る)ができる。
(※4)産業技術力強化法の重点産業技術(仮称)(AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙)のうち特に早期の企業化が期待されるものとして一定の基準に該当するものに関する研究及び開発であることにつき確認を受けた研究及び開発をいう。
(※5)グループ通算制度においては、所要の措置を講ずる。

 

(参考)各国は戦略分野に絞り込み、重点投資

出典:経済産業省 2025年11月12日 イノベーション・環境局 研究開発課「研究開発税制について」

 

(2) 一般試験研究費の額に係る税額控除制度の見直し

①【一般型】控除率の見直し

試験研究費を増加させるインセンティブをさらに強化する観点から、控除率が次のように見直される。

 

②【一般型】控除上限の変動措置の見直し

控除上限の変動措置について次のように見直される。

【一般型】

  改正前(存続) 改正後
  2027(令和9)年3月31日まで 2027(令和9)年4月1日から
控除上限

法人税×25%

<上乗せ措置>
次の場合は、それぞれの金額を上乗せ
(1)試験研究費割合が10%超の場合
法人税額×(試験研究費割合-10%)×2の上乗せ
(上限:法人税額×10%)
(2)研究開発を行う一定のベンチャー企業
法人税額×15%の上乗せ

<控除上限の変動>
次の場合には、それぞれの金額を上乗せ又は減額
(1)増減試験研究費割合が4%超の場合
法人税額×(増減試験研究費割合-4%)×0.625%の上乗せ
(上限:法人税額×5%)(※)<上乗せ措置>といずれか大きい方。
(2)増減試験研究費割合が△4%超の場合
法人税額×(-増減試験研究費割合-4%))×0.625%の減額
(上限:法人税額×△5%)

法人税×25%

<上乗せ措置>
次の場合は、それぞれの金額を上乗せ
(1)試験研究費割合が10%超の場合
法人税額×(試験研究費割合-10%)×2の上乗せ
(上限:法人税額×10%)
(2)研究開発を行う一定のベンチャー企業
法人税額×15%の上乗せ

<控除上限の変動>
次の場合には、それぞれの金額を上乗せ又は減額
(1)増減試験研究費割合が7%超の場合
法人税額×(増減試験研究費割合-7%)×0.625%の上乗
(上限:法人税額×5%)(※)<上乗せ措置>といずれか大きい方。
(2)増減試験研究費割合が△1%超の場合
法人税額×(-増減試験研究費割合-1%))×0.625%の減額
(上限:法人税額×△5%)

 

 

(3) 中小企業技術基盤強化税制の見直し

①【中小企業技術基盤強化税制】控除率

適用期限を3年間延長する。

 

②【中小企業技術基盤強化税制】控除上限

適用期限を3年間延長する。

【中小企業技術基盤強化税制】

  改正前 改正後
控除上限

法人税×25%

<上乗せ措置>
次のいずれかの金額を上乗せ
(1)増減試験研究費割合>12%の場合
法人税額×10%
(2)試験研究費割合> 10%の場合
法人税額×(試験研究費割合-10%)×2
(上限:法人税額×10%)

同左(延長

 

③【中小企業技術基盤強化税制】繰越税額控除制度の新設

控除限度超過額について、3年間の繰越しができる。

(※1)繰越税額控除の適用を受けようとする事業年度において、試験研究費の額が比較試験研究費の額を超える場合に限る。ただし、一般試験研究費の額に 係る税額控除制度の適用を受ける事業年度は適用不可。
(※2)グループ通算制度においては、所要の措置を講ずる。

 

(4) オープンイノベーション型に係る税額控除制度の見直し

① 共同・委託研究時の対象費用の手続合理化

大学等との共同研究及び大学等への委託研究に係る試験研究費の額について、共同研究又は委 託研究に要した費用であることにつき、監査を受け、その大学等の確認を受けた金額であること

⇒上記要件について、以下の要件を満たすことにつき経済産業大臣の指定を受けた大学等については、その大学等の長が認定した金額とする

 

イ)大学等に企業との共同研究及び企業からの委託研究(以下、「共同研究等」という。)についての管理を行う業務を集約する専門の部署が設置されていること等、その大学等が共同研究等を行うに当たって管理を行うための体制が十分なものであると認められること

ロ)その大学等の規則において共同研究等についての管理に関する業務方法等が定められており、その業務方法等が共同研究等を実施するに当たって適切なものであると認められること

ハ)その大学等において共同研究等についての企業との間の連絡調整及び事務手続きに関する方法が具体的に定められていること

 

② 対象者が少数である医薬品等に関する試験研究費の見直し

その用途に係る対象者が少数である医薬品等に関する試験研究に係る試験研究費の額について、当該試験研究費の全部又は一部につき、重点産業技術試験研究費の額に係る税額控除制度の適用を受ける場合、その部分は本制度の対象外とする。

 

③ 新規高度研究業務従事者の範囲の追加及び募集要件の見直し

改正前 改正後
  <新規高度研究業務従事者>
博士の学位を授与された者(授与された日以後5年以内に当該法人 の役員又は使用人になったものに限る。)で、当該法人の役員又は使用人になった日から5年を経過していないもの(追加)
<募集要件>
(1)当該試験研究の内容に関する提案が広く一般に又は広く当該法人の使用人に募集されたこと
(2)当該試験研究の内容が新規高度研究業務従事者から提案され たものであること
<募集要件>
(1)当該試験研究の内容に関する提案が広く一般に又は広く当該法人の試験研究に専ら従事する使用人に募集されたこと
(2)当該試験研究の内容がその試験研究に専ら従事する使用人から提案されたものであること

 

 

(5) 海外委託試験研究費について一定の制限を設定

近年、海外への外部支出研究開発費(委託等)の支出割合が増加している。

諸外国では研究開発税制の対象となる試験研究費について、海外への委託費について厳しく制 限されている場合が多く、研究拠点の国内回帰の面からも以下の制限が設けられる。

他の者に委託する試験研究(契約又は協定により委託する試験研究でその委託に基づき行われる試験研究が国外において行われるものに限る。)に係る試験研究費の額については、次の試験研究費の額の区分に応じた金額を税額控除の対象とする。

(1)一定の医薬品、医療機器等にかかる臨床試験の委託に係る試験研究費の額
(2)(1)以外の試験研究費の額は対象額の50%相当額(※)

※ 令和8年4月1日~令和9年3月31日までの間に開始する事業年度については70%相当額
令和9年4月1日~令和10年3月31日までの間に開始する事業年度については60%相当額

 

2. 適用時期

(1)戦略技術領域型に関する新制度の創設
産業技術力強化法の重点研究開発計画の認定の日(注)以後5年を経過する日又は計画期間終了日のいずれか早い日までの期間内の日を含む各事業年度
(注)産業技術力強化法の改正法の施行の日から2029年(令和11年)3月31日までの間に産業技術力強化法の重点研究開発計画の認定を受ける必要がある。

(2)一般試験研究費の額に係る税額控除制度の見直し
3年間延長。但し、一般型の控除率及び控除上限の変動措置の見直しについては、2027(令和9)年4月1日以後に開始する各事業年度で適用

(3)中小企業基盤強化税制の見直し

  • 3年間延長 2026(令和8)年4月1日から2029(令和11)年3月31日までの間に開始する各事業年度
  • 控除限度超過額の繰越については不明(大綱記載なし)

(4)オープンイノベーション型に係る税額控除制度の見直し
不明(大綱記載なし)

(5)海外委託試験研究費について一定の制限を設定
2026(令和8)年4月1日以降に開始する事業年度から段階的に適用

 

3. 実務上の留意点

(1)一般試験研究費の制度・中小企業技術基盤強化税制の見直し

  • 一般型の適用要件には、当期の所得金額が前期の所得金額を超える場合、雇用者給与、設備投資額の要件があるため、 大企業は注意が必要である。
  • 所得税も同様の改正がある。

(2)繰越税額控除制度の適用

戦略技術領域型に関する新制度及び中小企業技術基盤強化税制について、一定の要件を満たす場合には繰越税額控除 制度の適用があるため留意する。

 

4. 今後の注目点

  • 産業技術力強化法の改正法の施行日及び制定内容について
  • 重点研究開発計画の概要、具体的な認定要件、申請方法等
  • 産業技術力強化法の重点産業技術(AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョン エネルギー、宇宙)の具体的な定義について
  • その他所要な措置の具体的な内容について

 

内容につきましては、「令和8年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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