企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設

速報 2026年度(令和8年度)税制改正解説

1. 改正のポイント

(1) 趣旨・背景

企業グループ内の法人間で行われる取引、特にシェアードコスト取引などにおいて、恣意的な支払額の調整が行われやすいという課題がある。このような取引に関し、その内容や支払額の根拠の詳細を確認できる資料の一部又は全部が受領・作成されていないことにより、保存書類だけでは法人の経費の支払額が適正であるかを十分に確認できず、正確な実態確認ができていない事例があるのが現状である。

内国法人に対して企業グループ内取引の詳細が分かる一定の資料について、取得・作成及び保存を義務付けることで、課税関係の適正化を図ることが本制度の導入主旨である。

※ シェアードコスト取引とは、企業グループ内で発生する共通の業務(研究開発、広告宣伝、システムの維持管理等)を企業グループ内の特定の法人に集約し、その業務により発生した費用を、企業グループ内の他の法人に利用料等の一定の基準により請求する取引をいう。

(2) 内容

内国法人が関連者との間で特定取引を行った場合、その取引に関して、取引関連書類等にその取引に係る対価の額を算定するために必要な下記の事項の記載又は記録がないときは、これらの事項を明らかにする書類(電磁的記録を含む)を取得し、または作成し、保存することが義務付けられる。

① その取引に関する資産又は役務の提供の明細
② その取引においてその内国法人が支払うこととなる対価の額の計算の明細等
また、この新たな保存義務に従って書類が保存されていない場合、青色申告の承認の取消事由等に追加される措置も講じられる。

(3) 用語の定義

  • 関連者
    移転価格税制における関連者と同様の基準により判定する。
  • 特定取引
    販売費、一般管理費その他の費用の額の基因となる取引のうち、次の①又は②の取引をいう。
    ① 関連者から内国法人に対して行う工業所有権等の譲渡又は貸付け(貸付けには権利設定などにより工業所有権等を使用させる行為を含む)。なお、工業所有権等とは次の資産をいう。
    イ 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式又はこれらに準ずるもの
    ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む)
    ハ プログラムの著作物
    ② 関連者が内国法人に対して行う役務の提供のうち次の取引
    イ 契約・協定に基づき関連者が行う、次のいずれかの事業活動
    イ)関連者の産業・商業・学術に関する知識経験等の経営資源を活用して行う、研究開発、広告宣伝等の事業活動
    ロ)関連者の専用資産(専らその内国法人及び関連者の事業の用に供する目的の資産)をその内国法人に使用させる行為、及びその専用資産の維持・管理
    ロ 関連者がその内国法人に対して行う、経営の管理又は指導、情報の提供等で、関連者の産業・商業・学術に関する知識経験に基づき行うもの
    ハ 上記イ・ロに類する役務の提供
  • 取引関連書類等
    法人税法及び法人税に関する法令の規定により保存が義務付けられている書類等、すなわち、取引に関して受領若しくは交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類、又はこれらの書類に通常記載される事項が記録された電磁的記録を指す(法規則59①三、電子帳簿保存法7、電子帳簿保存法規則4)。

 

2. 適用時期

記載なし

 

3. 影響・対応策

この改正により、企業グループ内の関連者との取引において、取引の内容や支払額の根拠に関する詳細な書類の整備が義務付けられる。対象法人は大企業に限定されていないため、中小企業も対象になると考えられる。

なお、書類の保存義務を怠り、必要な書類が保存されていない場合、内国法人の青色申告の承認が取り消される可能性があるため注意が必要である。

 

4. 実務のポイント

対象取引の特定と現状把握 企業グループ内の関連者間取引のうち、特定取引に該当するものを洗い出し、現状の保存文書で「資産又は役務の提供の明細」や「対価の額の計算の明細」が網羅されているかを確認することが不可欠である。特にシェアードコスト取引は重点的に確認が必要である。
不足情報の補完と文書化 既存の取引関連書類等で情報が不足している場合は、その内容を具体的に明らかにするための書類(電磁的記録を含む)を新たに取得または作成する必要がある。
グループ内連携の強化 関連会社間での情報共有と協力体制を確立し、必要な書類の作成、提供、受領が遅滞なく行われるよう、取引内容(利用する資産、役務提供者、対応時間の管理など)や、請求金額(費用の配賦基準の合理性、計算プロセスなど)を明確化し、業務フローを整備する必要がある。本制度が、外国法人である関連者との取引も対象となる場合、文化や言語、法制度の違いも考慮した連携体制を構築することが重要となる。
社内規定・プロセスの見直し 新たな保存義務に対応できるよう、既存の会計処理や文書管理に関する社内規定、業務プロセスを見直し、必要に応じて改訂する必要がある。経理部門だけでなく、各事業部門や法務部門との連携も不可欠となる。
青色申告承認取消リスクへの対応 書類保存義務の不履行は青色申告の承認取消事由となるため、このリスクを十分に理解し、確実に義務を履行するための体制を構築・運用することが経営上の重要課題となる。

 

5. 今後の注目点

以下の点について今後詳細を確認する必要がある。

(1)本制度の適用開始時期
(2)外国法人である関連者から提供を受ける特定取引も本制度の対象となるか
(3)関連者の明確な定義
なお、移転価格税制において、国外関連者とは、外国法人で法人と特殊の関係にあるものと定義されている。したがって、本制度における関連者の定義は、法人と特殊の関係にあるものになると考えられる。特殊の関係とは下記のような関係をいう。
① 一方の法人が他方の法人の発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有する関係(親子関係)
② 同一の者によって発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有される法人相互の関係(兄弟関係)
③ 一方の法人が他方の法人を実質的に支配している関係(役員の兼務、取引の依存、資金調達の依存等)(実質支配関係)
④ 上記①~③が連鎖することで生じる関係


 

内容につきましては、「令和8年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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