海外デスクレポート

2026年8月4日

中国「対外投資規定」施行へ (中国)

中国「対外投資規定」施行へ (中国)

2026年5月5日、中国国務院は「対外投資規定」(国令第837号)を公布し、同年7月1日より施行される予定です。本規定は、中国における対外投資分野における初めての包括的な行政法規であり、これまで各部門に分散して規則運用されてきた制度を統合するものです。

1. 制度背景

近年、中国企業による対外投資は拡大を続けており、グローバル・サプライチェーンおよび国際的な産業分業への関与が一層深化しています。一方で、地政学リスクの高まりや各国の規制強化など、中国を取り巻く外部環境は大きく変化しています。このような状況下では、従来の部門規則中心の管理体制では対応が困難となっており、より上位の法規に基づく制度整備が求められてきました。
本規定の制定により、中国の対外投資政策は、以下の視点から再構築されており、「投資促進」と「投資規制」を両立させた制度設計が本規定の特徴と言えます。

  • 投資促進(対外開放政策の継続)

  • リスク管理(国家安全保障の確保)

  • 投資保護(企業権益の強化)

2. 規制対象の拡大

本規定では、対外投資の定義が広く設定されており、単なる海外会社の設立や持分取得にとどまらず、以下の行為も規制の対象とされています。

  • 資産・持分の投入

  • 融資・保証の提供

  • 海外企業・資産に対する直接または間接的な権益取得

特に重要なのは、「間接的な権益取得」が明確に対象に含まれる点です。これにより、SPC(特別目的会社)を活用した投資スキームや多層的な持分構造についても、実質ベースで規制対象となる可能性があります。

3. 制度の概要

本規定の特徴は、「規制強化」にとどまらず、以下の三つの機能を統合している点にあります。

(1)支援機能の強化:海外投資に対する総合的な支援体制の整備
具体的には、以下の施策が想定されています。

  • 投資情報・リスク情報の提供

  • 法律・税務・金融面での支援

  • 法律・会計等の専門機関の国際対応力強化

また、「投資者は法に基づき対外投資の自主権を有し、自主的に意思決定し、リスクを負担し、損益について自ら責任を負う」とされており、企業の海外展開は「自己責任」を基本としつつ、制度の枠組みの中で支援されることになります。

(2)管理機能の高度化:従来の「資金流出管理」から一歩進んだ投資プロセス全体に対する管理の導入
具体的には、以下の施策が想定されています。

  • 投資前:規制確認・リスク分析

  • 投資中:手続管理・資金管理

  • 投資後:継続的な監督

さらに加えて、以下の制度も明確化されています。

  • 奨励/制限/禁止の分類管理

  • 投資に係る申請・届出制度の継続

  • 国家安全審査制度の整備

特に国家安全審査については、投資実行時のみならず、資産処分や持分譲渡の局面においても当該審査が影響を及ぼす可能性がある点に留意が必要です。

(3)保護機能の拡充:対外投資における中国企業の権益保護の強化
主な内容は、以下のとおりです。

  • 国別リスク情報の提供

  • 国際協定を通じた投資保護

  • 領事保護

  • 紛争解決手段の整備

これにより、企業は不確実性の高い海外市場においても、一定の制度的保護を受けることが可能となります。

4. 日系企業への影響・実務上の留意点

本規定は主として中国投資者を対象とするものですが、中国企業と関係を有する日系企業にとっても、その影響は小さくありません。特に、以下の点について留意が必要です。

(1)規制対象の拡大
投資に付随する以下の要素も規制対象となる可能性があります。

  • 技術移転

  • データ移転

  • 人材派遣・技術指導

従来の「資金中心の管理」からの転換として、より広範なコンプライアンス対応が求められます。

(2)国家安全審査への対応
以下のようなケースでは、審査対象となる可能性があります。

  • ハイテク分野・重要インフラ関連投資

  • データ関連事業

  • 間接出資スキーム

(3)コンプライアンスの前倒し
実務上は、以下の対応が重要となります。

  • 投資初期段階での規制確認

  • スキーム設計段階でのリスク検討

  • 投資後管理体制の整備

「事後対応」ではなく、「事前対応型」のコンプライアンスが求められます。
従来は「海外子会社設立・出資」のみが主な規制対象でしたが、本規制により規制対象は企業の広範な「海外関与行為」へと拡張し、今後はグループ内融資・保証、持分構造の最適化(再編・移管)、SPCを活用した投資スキームといった行為も「対外投資」として規制対象となり、事前確認・手続が必要となる可能性があります。

5. おわりに

本規定の本質は、「対外投資の制限」ではなく、明確なルール下での促進にあります。

  • 管理の明確化 → 投資の予見可能性向上

  • 支援の強化 → 海外展開の後押し

  • 保護の充実 → リスク耐性の向上

今後、中国企業の海外投資は、より制度化・高度化された形で進展していくことが予想されます。

 

出典:国务院关于对外投资的规定(中华人民共和国国务院令 第837号)

 


  • 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
  • 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
  • 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
  • 大井 高志

    この記事の著者

    大井 高志
    税理士法人山田&パートナーズ  海外事業部 パートナー
    亜瑪達商務諮詢(上海)有限公司 総経理
    税理士・公認不正検査士

    2013年山田&パートナーズ入所。大手金融機関への出向後、2016年より上海へ赴任。中国系会計事務所への出向を経て2019年より現職。中国・香港・台湾における組織再編、進出・撤退支援、M&A関連業務、コーポレートガバナンス、不正調査対応、内部統制支援等のコンサルティング業務に従事。

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