1. はじめに
事業承継税制の特例措置の適用期限が迫っております。特例承継計画の提出期限が令和8年3月末、特例措置の適用期限が令和9年12月末となっており、期限を目前に控え中小企業の円滑な世代交代を支援する税制の在り方の議論が活発になってきております。
2. 親族内承継の重要性と一般措置の概要
中小企業の事業承継は、経営者の高齢化や後継者不在による廃業リスクが高まる中、地域経済の維持・発展にとって重要な課題となっております。とりわけ、同族・親族内承継は従来から主要な手段とされ、この円滑化のために事業承継税制(一般措置)が平成21年度税制改正で創設されました。本制度は、経営承継円滑化法の認定を基礎に、議決権株式数の3分の2までを対象に、贈与税100%、相続税80%を猶予し、複数株主から1名の後継者への円滑な承継を可能とするものです。この猶予された税額は、一定の要件を充足した場合には免除されることになります。しかしながら、当該免除要件を充足するのに長期間要する、対象株式や猶予割合の範囲に限りがある、承継後5年間の平均8割の雇用維持要件があるなどの影響もあり、適用件数は年間約250件にとどまっておりました。
3. 特例措置の拡充と利用実績
このような状況を踏まえ、平成30年度税制改正から10年間の時限措置として法人版事業承継税制の「特例措置」が創設されました。主な拡充ポイントは、猶予対象株式数の2/3制限撤廃、相続税の猶予割合100%への拡大、最大3名への承継対象拡大、雇用確保要件の弾力化などです。導入後の特例承継計画申請件数は、コロナ禍をはさみながらも年間2,000~5,000件で推移し、日本全国で広く活用されております。一方で、潜在的利用可能企業は年間約1.1万~1.2万社と推計されるのに対し、実際の活用率は約1/4~1/3にとどまり、「期限内に完了できない」「手続きが煩雑」「後継者育成が未完」「納税猶予が取り消されるリスクを懸念」といった課題の声もあります。
4. 中小企業庁における検討会設置と今後の改正方向性
こうした背景を受け、中小企業庁は「中小企業の親族内承継に関する検討会」を開催し、令和7年8月13日の第3回会合で中間とりまとめ(案)を提示いたしました。検討会では、特例措置創設後の活用状況や企業行動の変化を分析し、「株式の分散防止による安定的経営継続」と「雇用維持」の両立を前提としつつ、以下のような改正論点を確認しております。
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猶予対象株式数の適正な引上げ |
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贈与と相続間の猶予割合の差の見直し |
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一定期間(例:10年)継続経営で納税免除や評価減制度の導入検討 |
4 |
賃上げや成長投資を評価する雇用要件の追加 |
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事業承継後の社内ガバナンス強化策 |
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海外子会社株式を対象とする拡大 |
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報告手続きの簡素化(報告回数・添付書類の見直し) |
今回の中間とりまとめの改正論点がそのまま実際の改正につながるかどうかは現時点では未知数ですが、令和7年9月以降、中間とりまとめの方向性に基づきアンケート結果やヒアリングによる実態把握・効果検証を進め、令和8年3月末の計画提出期限・令和9年12月末の措置適用期限を踏まえつつ、具体的な制度改正案の設計検討が行われる模様です。
法人版事業承継税制の特例措置は、自由民主党のホームページに掲載されている令和4年度の税制改正大綱において、「この特例措置は、日本経済の基盤である中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上が待ったなしの課題であるために事業承継を集中的に進めるための時限措置としていることを踏まえ、令和9年12月末までの適用期限については今後も延長を行わない。」と記述されています。
そのため、法人版事業承継税制の特例措置は、今後延長又は改正について活発な議論が始まるものと考えられます。中小企業庁内の検討など、引き続き動向に注目されるところです。
執筆:金沢 伸晃 kanazawa23a@yamada-partners.jp