1. 概要
近年、地域統括会社体制への移行やグループ内における資本効率等の観点より、ASEAN地域内におけるグループ内の組織再編成等を行うケースは少なくありません。このようなクロスボーダー案件の実行にあたっては、株式等の資産を移転する法人の所在地国及び当該資産の所在地国における課税関係並びに法務上の手続の理解等、事前の理解及び検討が必要となります。
本稿では、日本法人がフィリピン法人株式を移転する場合を想定し、フィリピンにおける税務上の取扱い及び法務手続の概要を確認します。
なお、当該移転時における日本側の取り扱いについては、割愛します。
2. フィリピンにおける税務の概要
① キャピタルゲイン税(CGT)
a) 原則的な取扱い(フィリピン国内税法)
フィリピンでは、フィリピン非上場株式の譲渡益(売却価額と取得価額等の差額)に対して15%のキャピタルゲイン税が課されます。なお、税務上、当該売却価額については、株式移転時の当該株式の公正市場価値(以下、FMVという。)が採用され、このFMVは、原則として、譲渡日の直前の事業年度における財務諸表上の純資産価額を基準とした金額となります。実際の売買金額が、株式の移転時のFMVを下回る場合、FMVとの差額部分については、贈与税(Donor's Tax)の課税対象となります。
また、株式の移転時のFMVについて、フィリピン法人の財務状況に応じて、フィリピン税務当局(以下、BIRという。)からの指摘及び修正等が入る可能性もあるため、留意が必要です。
b) 租税条約の適用を受ける場合の取り扱い
日比租税条約では、一定の場合において、株式譲渡益の課税権が譲渡者の居住地国側に制限される取り扱いとなっているため、日本法人がフィリピン法人の株式を移転する場合、日比租税条約の適用を前提としてフィリピンにおけるキャピタルゲイン税が免除されます。ただし、当該租税条約の適用を受けるための免除申請にあたって、BIRの承認を得るまでに数カ月~数年の期間を要するケースがある点には留意が必要です。
また、総資産価額のうち、不動産の価額の占める割合が50%以上であるフィリピン法人の株式の移転については上記の租税条約の取り扱いを受けることができず、フィリピンにおいてキャピタルゲイン税の課税対象となります。
② 印紙税(DST)
フィリピン法人の株式の移転にあたり、株式の額面 または実際の対価のいずれか高い方の金額の0.75%の印紙税(DST)が課されます。
3. フィリピンにおける法務手続の概要
① 法務手続
主な手続フローは以下のとおりです。
- 株式譲渡証書(DOAS)の作成・締結(原則として、署名国での公証・アポスティーユが必要)
- 譲渡法人及び譲受法人間における譲渡代金の授受
- ONETT(One-Time Transaction)にて、CGT及びDSTについての税務申告並びに納税
ONETT・・・単発の資産取引に対する「税務申告、納税及び審査」についてのフィリピンの税務処理システム
※ 租税条約の適用を受ける場合には、租税条約の申請
- BIRからECAR(Electronic Certificate Authorizing Registration)を取得
ECAR・・・株式等の移転に係るタックスクリアランスを意味する証明書
- 株主名簿(Stock and Transfer Book)及び会社一般情報シート(General Information Sheet)の更新
- 旧株券の返却及び新株券の発行
② ECARについて
上記の手続きのうち、ECARの取得がフィリピン法人の株式の名義変更にあたって重要な証明書となっており、これが取得できないと株主としての法的効力が生じません。なお、租税条約の適用を受ける場合には、BIRからの租税条約の適用の承認後にECARの取得が可能となります。したがって、前述のとおり、その取得までに一定の期間を要するため、租税条約の適用を受ける場合には、法的な株主変更の効力発生が遅れることとなります。
最近では、租税条約の適用を受けない場合には、BIRへの申告から1か月程度でECARの取得が可能になっていますが、書類不備による遅延、株式の評価額に対するBIRからの照会等により遅延する可能性もあるため、留意が必要です。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。