タイの歳入局は2024年2月、民商法典1238条(2)に基づく法人の合併に関するタックスルーリング0702/1112を公表し、税務面での取り扱いを説明しました。タックスルーリングとは、納税者(個人・企業)がタイ歳入局に書面で問い合わせ、歳入局も書面で回答するQ&Aを指します。歳入局は数多く寄せられる照会の中からその他の納税者に有益と思われるルーリングを選定し、毎月2本程度公式ホームページで公開しています。
民商法典1238条では、2023年2月に改正施行となった株式会社の企業結合を規定しており、同条(2)では[法人Aが法人格を存続・維持し、法人Bは法人Aに合併し法人格が消滅する]吸収合併の方式が定められています。従来、タイでは吸収合併の制度はなかったのですが、2023年2月からは民商法典1238条(2)をもって会社法上では吸収合併が可能となりました。その一方で税務面の取り扱いには歳入局からは会社法改正にあわせてアナウンスがありませんでした。そういった環境を考慮し、歳入局はこのルーリングで理解を促したと推察します。
ルーリングの質問の内容は、『吸収合併した場合の税務面の取り扱いはどのように考えれば適切か』に対して、歳入局は回答しました。
【吸収合併の税務取り扱い】
- 当該ルーリングで分かったこと
本件の概要として、冒頭の段落では、民商法典1238条に基づく法人の統合は、税務上の観点からは、歳入法73条で定めている新設合併の規定には適用されず、歳入法74条で定めている全部営業譲渡の規定が適用される旨を説明しています。
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歳入法 |
内容 |
適用準用されない |
73条 |
新設合併の場合の税務責務の所在
・すべての法人格を消滅させ解散したとみなし、新たに設立する会社が権利義務を承継する場合、存続する新会社が消滅した会社を含み申告と納税の責務を負う
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適用準用される |
74条(1)(c) |
全部営業譲渡(譲渡益は法人所得の計算上、課税所得に参入せず)の要件
・全部営業譲渡の場合、譲渡をした年度と同一年度に解散登記を行い、清算手続きを行う
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- 法人税の観点
歳入法典74条では、譲渡会社(消滅法人)では資産を解散・統合の当日の市場価格で評価する旨の基本原則が定められていますが、同じく74条の全部営業譲渡の項目を準用すれば、資産譲渡から発生する収益や損失として税務上認識する必要はない、旨を説明しています。また、譲受会社(存続法人)においては、譲渡会社から引き継ぐ資産を市場価格ではなく譲渡会社の簿価で引き継ぐことができる旨、一方で、譲渡法人の税務上の累積損失を譲受法人が引き継ぐことは出来ない旨、解説しています。
- 譲渡法人の株主の株式譲渡益の免除
免除となる場合の条件は、譲渡法人の株主が譲受法人の株式を対価として受け取る場合、且つ、存続会社の株式の譲受と全部の資産譲渡が同一の会計年度内に行われる場合、その際には歳入局の他の統合や譲渡の規定に従う前提である旨、と説明しています。
- VAT付加価値税
全部営業譲渡の方式に従って全ての資産を譲渡する譲渡法人においては、資産売却には該当しないことからVATは発生しない、と説明あります。
- SBT特定事業税
不動産の譲渡に関しては、全部事業譲渡が行われ清算が同一年度に行われる場合においては、免除となる旨、説明あります。
- 印紙税
全部事業譲渡が行われ清算が同一年度に行われる場合においては免除となる旨、説明あります。
上記の通り、2023年2月から施行された改正民商法では吸収合併が可能となり、税務上のメリットを享受するには全部営業譲渡の手続き(譲渡実行と同じ会計年度内に清算手続きを行う・譲渡対価が譲受法人の株式で交付され譲渡会社の清算以降株主へ分配)に従う旨、の理解となります。
一方で、会社法では自動的に抹消清算となるのに全部事業譲渡に従うと事業譲渡後の清算登記を行うという不一致や歳入局への免税申請の手続きなどがアップデートされていないことから税務上の取り扱いには留意をする必要があります。
引用:タイ歳入局 0702/1112 | กรมสรรพากร - The Revenue Department (rd.go.th)
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。