海外デスクレポート

2024年3月22日

ランドブリッジ:マレー半島を横断、マラッカ海峡に代わる陸送プロジェクト (タイ)

ランドブリッジ:マレー半島を横断、マラッカ海峡に代わる陸送プロジェクト (タイ)

ASEAN友好協力50周年を記念する日ASEAN特別首脳会議が、20231216日から18日まで東京で開催されました。そこでタイのセター首相はマラッカ海峡の海上ルートに取って代わるランドブリッジ計画の説明を行い、投資家からは物流革命となる大動脈ルートの誕生かと多くの関心を集めています。

 

(1) ランドブリッジ計画

ランドブリッジ計画の総工費は概算で1兆バーツ(約4兆円)とされ、2025年に公開入札及び着工開始、58年(2030年~2033年)に段階的に完成する計画です。現在、インド洋と太平洋を結ぶルートは、シンガポールの南を回るマラッカ海峡を通過する航路が一般的です。このランドブリッジ計画は、タイ南部マレー半島で最も横幅が狭く細い「くびれ」とされるクラ地峡を利用して、両岸に位置するラノーン県の港湾とチュムポーン県の港湾及びその2つの港を結ぶ高速道路と鉄道を整備し、陸路経由でインド洋と太平洋をショートカットするものです。マラッカ海峡経由と比べれば、4日間の輸送時間短縮、輸送コストの15%削減が図れ、海峡での船舶密集解消による事故リスクの低減も期待されます。

 

 

出典:タイ王国政府ホームページ 経済欄

 

 

(2) ランドブリッジ計画が描く新たな国家ロジスティクス戦略

ランドブリッジ計画では、高速道路のバイパスや鉄道の敷設といった2つの基幹工事の他に、深海港の建設によって大型タンカーの係留を可能とします。港湾には国際物流センターを設置して、石油貯蔵施設を建設し石油の輸送パイプで東西の港を繋ぎ、またフリートレードゾーンとしての振興も図られます。陸路を経由するため、港で大型船の積み荷を一旦降ろしてそのコンテナを鉄道ないしはトラックに積載し運搬して、港に到着すればまたトラックや鉄道から積み荷を降ろして船に載せるという作業が発生します。この負荷には、トランスシップメントの積み替えシステムを導入して、同一船舶の運航に劣後しないように利便性を高めることが計画されています。

クラ地峡の活用については、以前からたびたび議論されており、前政権では50キロの運河を工事するという構想を掲げていましたが、現政権では港湾と陸路の開発による短期的に実現可能な案が打ち出されました。このランドブリッジ計画では、タイは海上連結の戦略的な立地で優位に立って、東南アジアの地域交通の玄関口のロケーションを活用して、域内で商材の集積チャネルの役割を担うというロジスティック戦略を掲げています。

港湾・鉄道・陸路の整備、またこれらを効率的に結ぶシステムなどを含めて、幅広い分野の事業者にとって影響のあるプロジェクトといえます。また、インド洋と太平洋を結ぶ事実上唯一のマラッカ海峡ルートにとって代わるかもしれないより効率的な代替ルートができることとなれば、日本国内企業にとっても輸出入面で多くの恩恵を受けることになります。

 

 

(3) 懸念点

  • 日系企業にとってのプロジェクト参加

1兆バーツ(約4兆円)という巨額な予算は、官民パートナーシップ(PPP)方式で実施され、2025年の入札が開始の予定です。日本企業が参画するとなれば、現地日系企業や日本国内企業にも大規模な経済効果が期待されます。

ただし、タイでPPP方式が採用された他の大規模プロジェクトの直近の例では、2016年の東部経済回廊(通称EEC:Eastern Economic Corridor)があげられますが、バンコクから東部パタヤやラヨーン地区を繋ぐ高速鉄道事業では、補助金を含むコミットメントといった観点で日系企業にとっては条件が厳しく、最終的にタイ財閥系が落札しています。

  • 環境及び観光産業への影響

タイの観光業の近年の成長は著しく、国際観光収入はコロナ前ではアメリカ、スペイン、フランスにつぐ世界4位となっております。また、タイ南部のマレー半島は、青々と茂るマングローブ、エメラルドの海が有名な地域で、クラ地峡を活用した場合の海上ルートの南側にはタイランド湾側にはサムイ島、マラッカ海峡側にはプーケット島などの世界的にも有名なリゾート地があります。そのため、環境や観光産業への影響も懸念されています。

 


  • 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
  • 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
  • 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
  • 額田 正憲

    この記事の著者

    額田 正憲
    税理士法人山田&パートナーズ
    業務推進部 部長

    1992年大手都市銀行に入行以来、タイ15年半、フィリピン2年勤務、東京でのアドバイザリー業務5年をもってアジア・オセアニアでのビジネス環境の改善に従事。2024年税理士法人山田&パートナーズ入所。各地域での経営環境・税務課題の解決に向けた支援に取り組む。

海外デスクレポートに戻る
すべて見る

CONTACT US

弊社へのご質問、ご依頼、ご相談など
各種お問い合わせはこちらにご連絡ください。

お問い合わせはこちら