海外デスクレポート
2025年1月7日
タイの子会社から日本の親会社向け貸付の検討(その1) (タイ)
1. 配当と貸付の概要
タイの現地法人の余剰資金の活用に関して、一般的には株主への配当が主たる手法と考えられますが、配当(日本の親会社向け)実施には消極的な現地法人もあります。その主な理由としては、源泉税が現地で10%要すること、株主の出資割合で51%をタイ地場パートナーが占めているので外部への流出が大きいこと、日本の親会社に還流する旨の指示が立ち上げ当初から出ておらず前例を踏襲した結果滞留に至ったことなどが考えられます。一方で、配当を積極的に行うタイ現地法人の背景は、BOI事業(タイ投資委員会でライセンスを受けた事業)からの配当で法人税免税期間内の利益を原資とする場合には源泉徴収をする必要がないこと、資本が100%親会社ないしはグループ会社が占めており外部株主に流出しないこと、ないしは合弁の場合では当初の株主間合弁契約書で利益還流の指針が示されていることなどが想定されます。
何らかの事由で、配当ではなく、貸付で日本の本社ないしは海外のグループ会社に貸付を行いたいというニーズもあります。貸付であれば株主以外のグループ会社には出来ること、貸付金の利息には特定事業税SBT(Special Business Tax)3.3%が課税されますが源泉税10%よりは低率であること、また、配当を決議する株主総会を開催する必要がないことも利便性の一つです。
合弁企業(本社49%出資) | 独資企業(本社100%出資) | |
配当 | 本社49%受領 | 本社100%受領 |
源泉税 | 配当元本の10% | |
貸付 | タイ側の合弁相手から「合弁相手には貸付せず本社向けのみに貸付する旨の了解を取り付ける調整 | 外資規制に該当 |
金利収入のSBT | 受取利息の3.3% |
ただし、タイ現地法人の株式保有割合で、外資(日本の親会社など)が50%以上を占めている場合、貸付行為を行うことは出来ません。貸付行為は、外資企業の事業活動を制限する外国人事業法の別表3(21)のその他サービス業に該当することから、規制業種の範疇とされます。一方で、タイ現地法人の株式構成でタイ地場株主が50%以上を占めている場合は、タイ内資企業の扱いとなり外国人事業法の対象とはなりません。事業行為には制限を被ることはなく、貸付行為もフリーハンドで行うことが出来ます。
タイ内資企業 | 外資企業 | |
株式保有比率 | タイ地場株主が50%以上 | 日本の親会社が50%以上 |
外国人事業法 | 適用外 | 対象 |
貸付行為 | 可能・制限なし | 不可・制限を受ける |
例外 | – | 2019年5月、緩和あり:タイ国内に所在する関連会社向け貸付は可 |
2. 貸付の手法
外資企業が貸付を行う方法には、3つあります。1つ目は外国人事業法で規制をかけている総務省の外国人事業開発局に個別申請・承認を得る方法、2つ目はBOI(タイ投資委員会)のTISO(貿易投資支援事務所:Trade Investment Support Office)のライセンスを得ること、3つ目はBOIのIBC(国際ビジネスセンター:International Business Center)のライセンスを取得することです。BOIは外国人事業法の上位法に位置づけられるため、外国人事業法で制限された業務をBOIが認可することで実施可能となります。以下のイラストでは、BOIが2021年9月に公開した貸付緩和の内容を表示しています。
(引用:タイ投資員会 IBC TISO JP.pdf)
一方で、BOIのTISOないしはIBCのライセンスを取得すれば、海外に所在する関連会社に貸付が出来ると早合点しがちですが、以下、留意を要する事項が複数あります。いずれのライセンスの場合も、TISOの本業である貿易・投資支援業務(関係会社向けサービス・事業活動アドバイス・商品情報サービス・エンジニア・輸入卸売りなど)に実際に従事する場合には関連会社向け貸付は可、IBCの本業であるアジア本部として傘下のグループ企業を統括する業務に従事する場合には関連会社向け貸付は可となります。貸付業務のみを可能とするBOIのライセンスはありません。BOIの考え方からすれば、関連会社を支援する制度(TISO・IBC)を利用して、関連会社を実務面でも計画策定面でも支援し関連会社からフィーを徴収するスキームが構築出来て、その段階で漸く関連会社の資金ニーズを把握することが出来るとする貸付Laterの方針です。
また、TISOでは年間経費1千万バーツ(約4千5百万円)をTISO事業のために消費する必要あり、IBCではIBC業務に従事する方を10人以上雇用の要件があります。現地法人としては日本人経費を含めて1千万バーツ以上を要しているケースでも、TISO業務単体で経費1千万バーツは相応な負担と考えられます。また、雇用10人も切実な課題です。事務職のスタッフの月給は3万バーツ以上が相場であること、人材の確保が難儀であること、現地法人の規模からして10人の雇用増は現実的ではないこと、などが挙げられます。
TISO | IBC | |
要件:経費 | 年間1千万バーツ(約4千5百万円)以上 | – |
要件:従業員 | – | IBC従事する従業員10人以上 |
貸付の要件 | TISO業務を実施すること TISO業務の収入とは、関係会社及び他社に対する貿易活動を含む経営、技術、貿易管理への支援サービスによるもの |
IBC業務を実施すること IBC業務の収入とは、支店及び関連会社への経営、技術、業務管理などのサービス提供を行った対価 |
貸付業務のみ行う | 不可 | 不可 |
では、タイの現地法人に負担をかけることなく、タイの現地法人の余剰資金を有効活用する方法に関して、考察してみます。タイの現地法人が以前にBOIのTISOを取得している場合であれば、BOIにTISOの貸付業務を追加申請することで認可を得る可能性があることです。新規申請ではなく、適格業務を追加の申請ですのでBOIの審査の目線も高くはない旨が想定されます。また、既にTISOを保有していることは、以下のイラストの事業範囲を既に適格業務として行い且つ年間の経費1千万円の負担をクリアしていると理解できますので追加の経費負担は生じません。TISOを保有している日系企業の数は、少なくとも数百社にも上るとされており、その数百社の現地法人では貸付が実行に移せる可能性は相応にあります。まずは、BOIのホームページ(投資奨励取得データベース)からタイ現地法人がTISOライセンスを保有しているかどうかチェック頂くことをお勧めいたします。
(引用:タイ投資委員会 20221026 J BOI.pdf)
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
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この記事の著者
額田 正憲
税理士法人山田&パートナーズ
業務推進部 部長1992年大手都市銀行に入行以来、タイ15年半、フィリピン2年勤務、東京でのアドバイザリー業務5年をもってアジア・オセアニアでのビジネス環境の改善に従事。2024年税理士法人山田&パートナーズ入所。各地域での経営環境・税務課題の解決に向けた支援に取り組む。
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