海外デスクレポート

2025年6月13日

タイの子会社から日本の親会社向け貸付の検討(その3)(タイ)

タイの子会社から日本の親会社向け貸付の検討(その3)(タイ)

本テーマでは、その1及びその2で、キャッシュを潤沢に保有しているタイの子会社が、日本の親会社や他の地域に所在するグループ会社向けに貸付を行うに際して、以下の三点を解説いたしました。

  • 資本の過半以上を日本の本社等の外国資本が占めている企業(以下、「外資法人」)の場合は、外国人事業法における外資規制の対象となり、貸付は自由に出来ない
  • 外資法人による貸付は、BOI(タイ投資委員会)の奨励恩典又はFBLForeign Business License/外国人事業許可)を商務省外国人事業開発局から取得する必要がある
  • BOIとFBLを比べた場合、BOIの方が総合的に使い勝手が良く、IBC(国際ビジネスデンター:International Business Center)とTISO(貿易投資支援事務所:Trade Investment Support Office)の奨励における関連会社支援業務の範疇で貸付は可能

今回(その3)は、既存TISO保有のタイの日系企業(以下、既得TISO企業)が、貸付業務をTISOに追加申請する場合の留意点について、解説します。

 

TISOの奨励事業の範囲に貸付業務が加わったのは20219月です。それ以前に奨励を受けた既得TISO企業が、親会社向け貸付を実施の場合は、TISOの事業範囲を逸脱することから、実行前にBOITISOの審査セクションに貸付項目の追加申請を行い、且つ承認を得ることが必要となります。BOIが貸付をTISOの項目1〔関連会社向けの支援業務〕に追加したことから、改訂当時には、20219月以前に項目1〔関連会社向けの支援業務〕の奨励を既に得ている場合には、親会社向け貸出業務の認可が自動的に追加されるのではないかという期待がありましたが、結論として自動付与はされませんでした。

そのため、TISOを用いて親会社向け貸出が可能となるのは、「20219月以降に貸出業務を項目1に追加申請・承認」、ないしは、「20219月以降のTISOの項目1〔関連会社向け支援含む貸出〕を新規申請・承認」、という2つケースに限られます。

 

BOIは既得TISO企業による貸付項目の追加申請は原則として承認します。この背景は、貸付項目の追加申請の要件では、TISOの基本業務(関連会社支援やエンジニア、工業用完成品の卸など)の要件を充足することが審査の前提となるからです。その一方で、貸付業務を行うことが主たる目的とする新規のTISOの申請にはBOIは慎重です。これは、BOIは貸付業務をTISO基本業務の付随サービス*の範疇と考えていることに起因します。

*BOI投資ガイド抜粋:関連会社およびグループ会社への貸付の場合、2.1のビジネス範囲の貸付以外のその他のサービスを提供すること、または 2.2 〜2.7で少なくとも1つのビジネス範囲をすること。

既得TISO企業が貸出業務を追加申請する場合の留意点は以下です。

  1. 既得TISOの承認内容と実際のビジネスの整合性
    例えば、工作機械などの完成品の輸入及び卸の奨励を得ているのにも関わらず、部品の輸入販売を行っている、又は、工作機械を直販でお得意先の工場に納入している場合は、奨励内容と実態が合致しませんので、奨励を逸脱する行為となります。BOIは、既得TISO企業の商流を確りと検証するため、申請前に実際の商流と承認内容との整合性チェックを推奨します。

  2. 既得TISOの条件である経費1千万バーツの利用実績
    既得TISOは年間1千万バーツ以上、経費・販管費として消費することが要件の一つです。
    一般管理費と販管費はTISO事業に関する経費で使用されることが要請されますので、TISO事業以外に売上事業がある場合、経費をTISO事業とそれ以外に案分が必要です。

  3. 親会社との資本関係を示す相関図
    貸付先がタイ法人の株式を100%保有している本社なのか、その持株会社なのか、また、本社の関連会社なのか、日本なのか海外かなどに関しては、出資関係を示した相関図がBOI担当官の理解を得やすいと考えます。出資関係が25%以上で、直接間接に繋がっていれば関連・グループ会社に相当します。この関連会社のルールに関しては、出資関係図を示すことで解決できます。

  4. 借入側企業に関する全般的な説明
    貸付側であるタイ法人は、BOIの審査の視点は、借入側企業(本稿では日本親会社)の説明が必要です。本社の会社案内の英字版、ホームページからの情報、決算書などを用いてBOIに情報を開示します。

  5. 貸付の内容
    商務省のForeign Business License外国人事業許可の審査のように詳細な説明を求められることはないと考えますが、想定される貸付の内容(タイ側から:貸付金の原資、目的、金額、期間、など、また、日本側から:借入金の使途、期日到来時の返済の原資など)は、BOIに審査される可能性があります。

  6. 通貨
    日本への送金通貨に関しては、BOIへの説明は不要です。日本向け貸付の送金はタイバーツ建て以外(一般的には日本円・米ドル)が可能です。タイバーツ建ての貸付が可能となるのは、タイと接している国(ベトナムを含む)に送金を場合に限られます。

 

これまで3回シリーズでタイの子会社(資本は外資)が手許に蓄えてきた余剰資金を日本の本社向けに貸付するには、ライセンスが必要で、ライセンス取得には相応のハードルがある旨を説明して参りましたが、既得TISO企業にはハードルが低いという点が重要なポイントとなります。

 

以下、BOIガイドブックからのTISO要件の抜粋です。

 

 

出典元:タイ投資委員会「タイ国投資委員会ガイド2023」

 


  • 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
  • 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
  • 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
  • 額田 正憲

    この記事の著者

    額田 正憲
    税理士法人山田&パートナーズ
    海外事業部

    1992年大手都市銀行に入行以来、タイ15年半、フィリピン2年勤務、東京でのアドバイザリー業務5年をもってアジア・オセアニアでのビジネス環境の改善に従事。2024年税理士法人山田&パートナーズ入所。各地域での経営環境・税務課題の解決に向けた支援に取り組む。

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