海外デスクレポート
2026年4月22日
外国人事業法におけるノミニー(名義貸し)摘発に向けた規制強化の動き(その2)(タイ)
前稿(その1)では、2026年1月に本格稼働した制度改正を取り上げ、外国人が関与する会社形態に対し、タイ側株主の銀行取引履歴(過去3か月分)を通じて、出資資金の原資および資金の流れそのものを確認する実務が導入された点について説明しました。この改正により、従来のように、株主構成が形式上タイ人であることや、資本金が会社口座に払い込まれていることのみをもって充足とする対応は見直され、株主レベルにおいても、自己資金による出資であることを客観的に説明できる体制が事実上求められる状況となりました。
これに続き、商務省事業開発局(DBD)は、ノミニー(名義貸し)規制をさらに一段階進める措置として、2026年4月1日より、外国人が関与する一定の会社変更登記を対象に、会社自身に投資確認書(หนังสือยืนยันการลงทุน)の提出を義務付けました。
本稿(その2)では、この2026年4月施行の追加措置について取り上げ、2026年1月改正との関係を踏まえつつ、当該措置がどのような位置付けを持つものかを解説します。
1. 2026年4月施行の改正内容
2026年4月1日より施行された今回の追加措置は、外国人が関与する一定の会社変更登記を対象として、会社自身による投資確認書(หนังสือยืนยันการลงทุน)の提出を義務付ける点に特徴があります。これは、2026年1月改正によって導入された、タイ側株主の銀行取引履歴を用いた資金原資の確認を前提としつつ、その確認結果を踏まえた「会社としての表明」を制度上明確に求めるものです。
本措置の対象となるのは、外国人出資比率が50%未満である場合に限られません。出資割合にかかわらず、外国人が署名権を有する取締役として関与する会社についても、当該確認書の提出が求められます。そのため、形式上はタイ内資会社に該当する会社であっても、外国人の経営関与が取締役としての職務を通じて行われる場合、本措置の適用対象となる点に留意が必要です。
提出が求められる投資確認書は、単に資金が払い込まれていることを確認するための書類ではなく、会社の代表者(署名権限を有する取締役)が、当該会社において、株主が実際に自己資金で出資していること、ならびにタイ人が外国人の代理として名義を貸す形で事業経営に関与していないことを確認・表明する内容となっています。すなわち、確認の焦点は、株主構成や形式的な出資結果ではなく、出資および経営関与の実質に置かれています。
さらに、本確認書の位置付けは、単なる参考資料や添付書類にとどまるものではありません。宣誓書本文において、確認内容に虚偽が含まれる場合には、外国人事業法違反のみならず、刑法上の虚偽申告罪等にも該当し得ることが明示されており、確認書に署名する代表者に対して、一定の法的責任が明確に付与されています。この点において、本措置は、株主個人に対する資金確認を中心とした2026年1月改正から一歩進み、会社および取締役レベルでの責任を制度的に明確化する対応と思料します。
尚、刑法(第137条・第267条)および外国人事業法はいずれも刑事罰を伴う点では共通しますが、前者が虚偽の申告や文書提出といった手続違反を対象とするのに対し、後者はノミニー構造という事業実態そのものを違法とする点で性質を異にします。
2. 投資確認書の内容
2026年4月改正により提出が求められる投資確認書は、単なる事実確認書類ではなく、会社が一定の事項について宣誓・表明する形式を採っている点に特徴があります。具体的には、
① 株主が実際に自己資金で出資していること
② タイ人が外国人の代理として名義を貸す形で事業経営に関与していないこと
の2点について確認・表明する内容となっています。
また、宣誓書本文においては、これらの点について虚偽の記載があった場合、刑法(第137条・第267条)および外国人事業法違反に該当し得る旨が明示されています。
| 2026年以前 | 2026年1月改正 | 2026年4月改正 | |
| 対象 | 全ての会社 | 外国人関与のタイ法人* | 外国人関与のタイ法人* |
| 特徴 | 登記書類での形式チェック | Bank Statement異動明細の提出 | 宣誓書の提出 |
| 目的 | 株主構成のチェック | 資金原資のチェック | 虚偽防止とノミニーではない確認 |
| 確認方法 | 登記書類 | Bank Statementでの入出金記録 | 宣誓・表明 |
| 虚偽時 | 是正 | 行政リスク | 刑事責任(刑法・外国人事業法上の刑事罰を含む罰金刑/懲役刑含む) |
| 刑法 | 想定されない | 間接的 | 直接・明示あり |
| 外国人事業法 | 通常レベル | 出資金貸付の疑義が顕在化 | 直接的に連動 |
外国人関与のタイ法人* 外国人持株比率が50%未満、または外国人が署名権限を有する取締役として関与の法人
出所: 2026年3月16日付商務省事業開発局 会社登記所命令第1号/2569
3. 実務および影響
2026年4月改正により、投資確認書は単なる提出書類ではなく、会社として一定事項を宣誓・表明する文書として位置付けられました。これにより、従来は株主個人の問題として扱われてきた出資の実態やノミニー該当性について、会社および署名権限を有する取締役が責任主体として関与する構造が明確となっています。
特に重要なのは、宣誓内容に虚偽があった場合、行政上の是正にとどまらず、刑法(第137条・第267条)および外国人事業法に基づく刑事責任が新たに追加された点です。これにより、取締役にとっては、形式的な署名では足りず、宣誓内容について合理的な確認を行うことが実務上不可欠となります。
タイ人株主については、自己資金による出資や非ノミニーであることが宣誓内容として明示されたことにより、虚偽が認定された場合には、名義貸し当事者として外国人事業法違反が問われてしまいます。また、外国人関係者についても、直接の署名者でない場合であっても、実質的に事業を支配していると評価されれば、外国人事業法上の責任を問われてしまいます。
既存企業においても、会社変更登記や増資、株主・取締役の変更等の際には、本宣誓書の提出が求められる可能性があります。
本改正は、企業に対し、「登記できるか」ではなく「宣誓できるか」という新たな判断軸を提示するものであり、登記手続を刑事責任前提とするプロセスを含むという点でタイ進出、タイ法人資本政策において大きなインパクトがあります。
4. 考察
従来、外国人事業法においてもノミニー行為には刑事罰が規定されてきましたが、それは主として事後的な摘発を前提としたものでした。これに対し、2026年4月改正は、会社登記という最初の入り口において宣誓を求め、虚偽があれば直ちに刑事責任を問える仕組みが確立されました。
今後は、タイ進出では、タイ人出資者が見つからない、承諾してくれていたタイ人が宣誓書サインの段階で急に辞退を申しだされるなど、事業開始スケジュールの大幅な変更が生じる可能性があります。また、既存のタイ法人においては、タイ人出資者から株式所有の辞退を求められ新たなタイ出資者を探す必要が出てくる事態も想定されます。タイ法人の資本政策として、安定株主の確保は今後より重要性が増すことになります。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
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この記事の著者
額田 正憲
税理士法人山田&パートナーズ
海外事業部1992年大手都市銀行に入行以来、タイ15年半、フィリピン2年勤務、東京でのアドバイザリー業務5年をもってアジア・オセアニアでのビジネス環境の改善に従事。2024年税理士法人山田&パートナーズ入所。各地域での経営環境・税務課題の解決に向けた支援に取り組む。
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