1. はじめに
米国金融機関の預金を長期間放置していた場合には、当該預金がその金融機関の所在する州の管理下に置かれ、凍結することがあります。今回はアメリカの預金が凍結してしまい、相続税の納税が困難になってしまった方の相談事例をご紹介します。
2. 失敗事例
〈 概要 〉
- 当事者:被相続人Aさん、相続人Bさん(Aさんの子)
- Aさんは過去から20年間ニューヨークに勤務、報酬を米国預金口座で受領
- 日本帰国の際に米国での運用を維持するため当該預金口座を継続保有していた
- 米国プロベートの回避のためBさんを預金口座の受益者として設定していた
〈 事例の流れと顛末 〉
- Aさんの遺産額は日本に不動産と少額の預金、米国にはニューヨーク勤務時代のほとんどの貯蓄という構成で、米国には長年入出金をしていない預金口座をお持ちの状況でした。ご生前に、Aさんはプロベート手続きに時間がかからないように手当するためBさんに名義変更がすぐ行われるようBさんを受取人に指定していました。
- 相続が発生した後、Bさんは米国金融機関に連絡をとり日本への送金を手配しましたが、長期間放置していたことですでに預金は凍結され、ニューヨーク州の管理下に移る未請求資産(Unclaimed Property)とされていたという通知を受けました。Bさんはこの預金を日本に送金しないと日本の相続税が払えない状況でした。
- 弊社に相談が来たのはこの時期です。すでに6ヶ月が過ぎており、ニューヨーク州に手続きを確認したところ、預金の払い戻しには相続人の権利を証明する法務資料を提出した後、早くとも半年から1年はかかことが判明しました。つまり、日本の相続税の納税期限までに納税資金を確保することができないこととなりました。
実際に、コロナ禍での各種手続きの遅延もあり、最終Bさんの手元に小切手が届いたのは相続が発生してから1年半が経過した時点でした。
- なお、今回のケースでは、幸いにも相続税の納税や申告の延長の特例を適用することができ、ペナルティなどを支払わずにすみました。
3. おわりに
アメリカから日本に帰国する方は、米国預金口座をそのまま維持するのか、日本に送金してしまうのかを、将来の相続を見据えて検討しておく必要があります。また、口座を維持する場合にはプロベート手続きの回避手法を検討するのに合わせて、その銀行及び州のルールで凍結口座にならないようするための要件を確認しておくことが重要です。あわせて、米国の名義変更手続きには時間がかかり、日本の相続税申告期限(10カ月)に間に合うケースは稀であることを踏まえ、財産の構成を見直すことも大切です。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。