近年、日本企業のグローバル展開が加速する中、各国の税務リスクマネジメントは経営課題として一層重要性を増しています。こうした流れの中、多国籍企業の税務コンプライアンス領域で注目を集めているのが、OECD主導のICAP(International Compliance Assurance Programme)です。本稿ではICAPの特徴や参加要件、APA(事前確認制度)やMAP(相互協議制度)との違い、や日本企業がICAPを活用する意義について解説します。
ICAPとは何か?
ICAPは、多国籍企業が自発的に複数国の税務当局と連携し、移転価格やその他の国際税務リスクについて、事前に情報を共有・確認する国際的な枠組みです。利用企業は一度に関係する各国税務当局と協議し、税務リスク認定や調整方針を事前に合意できるのが特徴です。
2018年にOECD主導で8か国のパイロットプロジェクトとして開始され、現在、日本や米国、英国、オーストラリア、カナダなど下記23か国が参加しており、今後も増加していくと考えられます。この枠組みによって、国境をまたぐ取引の不明瞭な課税問題や、各国での煩雑な税務調査対応の負担を大幅に軽減でき、将来的な二重課税などの国際的な紛争を未然に防ぐことも期待されています。
※ ICAP制度参加国
アルゼンチン、フィンランド、ノルウェー、オーストラリア、フランス、ポーランド、オーストリア、ドイツ、ポルトガル、ベルギー、アイルランド、シンガポール、カナダ、イタリア、スペイン、チリ、日本、英国、コロンビア、ルクセンブルグ、米国、デンマーク、オランダ
OECD国際コンプライアンス保証プログラム |OECD
どんな日本企業がICAPに適しているか?利用要件は?
ICAPの利用は、グループの最終親会社が所在する国で国別報告書(CbCR)の提出義務があることが前提となります。日本法人が最終親会社の場合は、グローバル連結売上高が約1,000億円を超える企業グループが該当します。各国にまたがる事業活動を展開している自動車メーカー、総合商社、製造業、IT企業など、海外現法や関連会社を多く持つ企業が適しており、ICAPの活用による税務リスクの可視化や各国当局との一括協調による事前合意の恩恵を受けやすいと言えます。
APAやMAPと何が違うのか?
移転価格税制をめぐる税務リスク管理策としては、APAやMAPが活用されています。APAは特定取引に対する移転価格課税リスクの回避に有効ですが、申請手続きや交渉が煩雑、長期化しやすいという課題があり、一般的に二国間APAの場合は、2~4年を要する場合があります。一方、MAPは実際に二重課税が発生した場合にのみ活用できる制度です。
これに対しICAPは、移転価格リスクを含む複数の税務リスクを、各国当局と企業が同時に、かつグループ全体で一括評価し、目安として全体で原則44週~65週程度目安として完了できることが特徴です。また、2024年までは年2回の受付でしたが、現在は随時受付が可能になっています。
※ OECDが示す目安のタイムライン
- ステージ1 選定(対象取引、対象国):8~12週
- ステージ2 リスク評価、問題解決:30~45週
- ステージ3 結果通知:6~8週
international-compliance-assurance-programme-frequently-asked-questions.pdf
ICAPの利用により企業は、比較的に早い手続きで、重複する税務調査対応や煩雑な文書提出から解放され、本業やガバナンス活動により注力できます。ただし、ICAPは全ての取引に利用できるわけではなく、移転価格リスクが高い取引などは除外対象とされています。
ICAP活用の検討
ICAPは、日本企業が国際税務リスクを効率的かつ予見可能な形で管理できる革新的な枠組みです。グローバル展開を進める企業ほど、積極的なICAP活用によって税務の安定と競争力強化を実現できます。今後、国際税務戦略の中心に据えるべき施策と言えるでしょう。
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- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
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