昨年トランプ政権下で実施された一連の関税引き上げ政策の影響は、12月決算企業ではまもなく、3月決算企業でも6月前後から決算数値として本格的に顕在化します。とりわけ米国で事業を行う日本企業においては、すでに移転価格ポリシーの見直しや年末調整を実施した企業がある一方、これから対応に着手する企業も少なくありません。
関税がもたらす3つの影響と、その連鎖
関税負担の増加は、単なるコスト上昇にとどまらず、以下のような形で企業グループの損益構造と税務リスクに連鎖的な影響を及ぼします。
第一に、グループ内取引における原価構造の変化です。
関税は多くの場合、仕入原価や製造原価に吸収されるため、子会社に対する販売価格の改定が行われていない場合には、米国子会社の利益率が低下します。
第二に、その結果として生じる各国子会社間の利益配分の歪みです。
関税負担が特定の法人に集中する一方で、取引価格や機能・リスクの整理が従来のままであれば、実態と利益帰属の間に乖離が生じやすくなります。
そして第三に、こうした乖離は、移転価格税制上のリスク顕在化につながります。
機能・リスクの実態や経済的貢献と整合しない利益配分は、税務調査において説明が困難となり、移転価格更正や二重課税のリスクを高める要因となります。
特に、関税という外生的要因により損益構造が変化しているにもかかわらず、移転価格ポリシー、契約条件、文書化が更新されていない場合、そのリスクは一層顕在化します。
着手すべき短期的対応と、並行して検討すべき中長期課題
こうした状況を踏まえると、まだ十分な対応ができていない企業は、短期的な実務対応と、中長期的な構造対応を切り分けて検討することが重要です。
短期的に優先すべき対応としては、以下が挙げられます。
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米国向け取引における関税コストの現状把握と、損益および既存の移転価格ポリシーへの影響分析
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関税に対する除外措置や軽減策の可能性検討
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機能・リスク分析に基づく利益配分の妥当性の再確認
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関連者間契約書における価格条項やコスト負担条項の見直し・追記
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米国および日本の税務当局を意識した文書化の整備と、定性・定量両面での説明可能性の確保
これらは、直近の決算・税務調査リスクを抑制するために不可欠な対応です。
一方で、中長期的な視点で並行して検討すべき課題もあります。
これらは即効性のある対策ではありませんが、関税リスクを構造的に低減し、将来の不確実性を抑えるための重要な検討テーマとなります。
「関税コスト対応」から「戦略再設計」へ
今後の決算期においては、関税政策の影響そのものに加え、それに対して企業がどのような移転価格戦略やグループ内取引設計を採っているかが、米国・日本双方の税務当局から厳しく問われることが想定されます。
企業はこの局面を、単なる一時的なコスト増への対処と捉えるのではなく、グローバル税務およびサプライチェーン戦略を再設計する契機と位置づけるべきでしょう。
関税影響が本格的に数値へ反映される前に、米国移転価格税制に精通した専門家を交え、実行可能な政策と対応策を早期に準備することが、将来の税務・経営リスクを抑える鍵となります。
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- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
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