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海外デスクレポート
2026年3月18日
2026年3月4日、IRSのAdvance Pricing and Mutual Agreement Program(APMA)のディレクターであるJohn Wall氏は、2025年に締結されたAPA(事前確認制度)の件数が、過去2年と比べて減少したことを明らかにしました。正式な締結件数は3月末に公表予定の年次報告書で示される見込みですが、米国APAを取り巻く環境に変化が生じている点は注目に値します。締結件数減少の背景としては、①APMA職員の退職増加および採用不足による人員減、②政府機関のシャットダウン、③トランプ政権下で導入された関税政策といった複数の要因が指摘されています。中でも関税の影響は大きく、APA審査において不可欠となる比較企業データが十分に揃っていないことが、実務上の大きな制約となっています。さらに、今後の文書化における経済分析においても、納税者と比較企業との間で関税の影響の度合いが異なることが想定されるため、適切な調整を行うことは従来以上に困難になる可能性があります。関税の影響を受ける取引、特に米国向けの卸売・流通取引については、第三者取引データが確定しない限り、適切な検証を行うことが難しい状況にあります。この点はAPAに限らず、通常の税務調査においても同様であり、今後は税務調査の場における調査官の判断や対応を事前に予測することが、これまで以上に難しくなることが懸念されます。その結果、納税者側が合理的であると考える説明や分析が十分に理解されず、適切な対応が得られないリスクも否定できません。特に留意すべき点として、APMA職員と通常の税務調査を担当する調査官との間では、関税政策に関する知識や実務的な理解、対応策の考え方に一定の差が生じ得る点が挙げられます。APMAでは、関税の影響を含めた中長期的かつ全体的な事業実態を踏まえた検討が行われる一方で、通常の税務調査では、必ずしも同様の視点や経験が共有されているとは限りません。このような状況下では、IRSの動向を注視しつつ、移転価格対応を慎重に検討していく必要があります。一方で、APAを通じて関税の影響や実務上の制約について事前に税務当局の理解を得られる可能性もあり、引き続きAPAは有効な移転価格リスクマネジメント手段の一つと考えられます。日本企業にとっては、これまでにない不確実性の高い環境の中で、従来とは異なる柔軟かつ戦略的な移転価格対応が求められる局面に入っていると言えるでしょう。
この記事の著者
倉本 正丈 Yamada & Partners USA, Inc.シニアディレクター
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