1. 連邦税中心から州税も視野に
日本企業にとって米国移転価格税制は、従来、IRSによる連邦税ベースでの調査・課税調整が主な関心事でした。日本企業の実務感覚としても、IRSによる移転価格税務調査と比較すると、州税レベルで移転価格が正面から争点となるケースは決して多くなく、州税の移転価格税制対応は後回しにされがちでした。しかし近年、米国各州においても、州法人税の観点から、州税レベルで関連者取引を調整する動きが見られるようになっています。米国内の多くの州に事業拠点を有する日本企業にとって、州税は見過ごせない論点となりつつあります。州税においても所得の不適切な移転を是正するための法的枠組みが存在する以上、制度の存在を理解し、実際に調査に入られた場合に備えておくことが重要です。
2. 州税における移転価格調整の法的枠組み
日本の地方税と異なり、米国の州税は、連邦税とは独立した制度で、州ごとに課税体系や調査スタンスが大きく異なります。多くの州では IRC §482 を条文上直接準用していないものの、「所得を適正に反映させる」「関連者間で不当に所得が移転している場合には調整できる」とする規定を州法上設けています。その結果として、実質的には移転価格調整と同様の否認が行われるケースが見られます。州税レベルで移転価格への対応が比較的積極的とされる州としては、下記などが挙げられます。
- カリフォルニア州(California Revenue & Taxation Code §25137)
- ニューヨーク州(New York Tax Law §210-A & 20 NYCRR §4-6.1)
- ニュージャージー州(New Jersey Statutes §54:10A-10)
- イリノイ州(35 ILCS 5/404)
- ルイジアナ州(Louisiana Revised Statutes §47:287.480)
- ノースカロライナ州(North Carolina General Statutes §105-130.5A)
- インディアナ州(Indiana Code §6-3-2-2)
なお、インディアナ州では所得が適正に反映されない場合に代替的配分方法を用いることが認められており、実務上は州税当局との事前協議や Managed Audit を通じて、配分方法や関連者取引の取扱いについて、州税バージョンのAPAに類する形で事前に整理・合意が図られるケースが見られる点も特徴です。
3. 州税移転価格で問題となりやすい取引
上記の州では、連邦税務上は問題とならなかった関連者取引であっても、州税の観点から独自に検証・調整される可能性があります。理論上は日本親会社から米国子会社への製品供給取引も対象となり得ますが、実務上は、米国内の持株会社から米国内の関連者への役務提供、管理業務・サービスフィー、ロイヤルティ等の無形資産取引が争点となるケースが多く見られます。州税では、「どの州で、どのような機能・リスクが実際に担われているのか」という点が特に重視され、無形資産取引やサービス取引について、実態と対価の整合性が厳しく検証される傾向があります。州税レベルにおいても、実際の機能・リスクに見合った取引設計が行われているかを説明できる状態にしておくことが、有効な防御策となります。
4. 実務対応上の留意点
州税レベルの移転価格税制対応では下記がポイントです。
- 州税での調査件数は限定的である一方、制度自体は州により存在し、内容も異なる
- 州ごとの事業実態、機能、リスクを把握し、税務調査時に説明できる準備が必要
- 連邦税ベースの移転価格文書を前提としつつ、州税調査を意識した補足的な整理を行う
米国移転価格対応は、連邦税だけでなく、州税を含めた多層的な視点での管理が求められる段階に入っています。州内法人が担っている製造、販売、サービス機能や意思決定の実態を踏まえ、それに応じたリターンが適切に帰属しているかを整理しておくことが重要です。
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