海外デスクレポート
2025年9月1日
日本帰国年度における居住者及び非居住者の選択について
米国赴任者が日本へ帰国した場合、帰国日の属する年の居住者及び非居住者の判定は複雑になります。日本の所得税法上の取り扱いと比較して特にその違いが顕著に表れるのは、必ずしも帰国日を境に居住者期間と非居住者期間に分かれるわけではない点です。米国税務上は、帰国年度に実質滞在テスト(Substantial Presence Test)を満たす場合は、原則として、その暦年を通じて米国居住者として扱われます。ただし、納税者の選択により、帰国後の期間について非居住者としての取り扱いを受けることが可能となる制度もあります。この選択により課税範囲が異なるため慎重に検討する必要があります。
1. 実質滞在テストの条件を満たす場合
日本帰国年度において、実質滞在テストの要件を満たし米国所得税法上の居住者に該当する場合は、帰国後の期間も含めて通年で居住者として扱われ、帰国後の期間についても全世界所得に対して課税されます。
例えば、過去数年間、米国に居住していた駐在員が、9月30日まで米国に滞在し、10月1日に日本へ帰国したとします。この場合、帰国年の米国滞在日数だけで31日以上となり、過去の滞在日数を含めた計算でも183日以上となるため、実質滞在テストを満たすことになります。この場合は、帰国日を含む暦年を通じて居住者として扱われ、帰国後に日本で得た所得も含め暦年を通じて全世界所得が課税対象となります。
暦年全体を居住者として申告するため、課税所得の計算上、定額控除(Standard Deduction)を適用できます。申告資格は、一般的には、独身者であればSingle、既婚者であればMarried Filing Jointly又はMarried Filing Separatelyとなり、既婚者の場合には、Married Filing Jointlyの申告資格により申告することが可能です。
※ 実質滞在テスト(Substantial Presence Test)
次の要件をいずれも満たす場合には、米国所得税法上、居住者に該当します。
① その年の米国の滞在日数が31日以上
② その年の米国の滞在日数、前年の米国の滞在日数の3分の1の日数、前々年の米国の滞在日数の6分の1の日数の3年間の合計滞在日数が183日以上
2. 実質滞在テストの条件を満たさない場合
実質滞在テストの要件を満たさず米国所得税法上の居住者に該当しない場合は、その課税年度については、非居住者として米国源泉所得のみが課税対象となります。
例えば、前年の4月1日に米国に初めて赴任した駐在員が、翌年の2月28日に日本に帰国したとします。この場合、帰国年の米国滞在日数は31日以上となりますが、過去の滞在日数を含めた計算では183日以上の要件を満たさないため、実質滞在テストの要件を満たしません。この場合は、帰国日を含む暦年を通じて非居住者として扱われ、米国源泉所得及び米国での事業に実質的に関連する所得のみが課税対象となります。
3. 実質滞在テストの条件を満たした場合において帰国後の期間を非居住者とする例外
実質滞在テストに基づき、米国所得税法上の居住者に該当した場合であっても、帰国年度において以下の要件を満たす場合は、申告期限までに申告書に所定の声明書を添付することで、帰国後の期間を居住者期間から除外し、居住終了日を早めることができます。この場合、居住終了日は、その年に米国に実際に滞在した最終日となります。
① 実質滞在テストの要件を満たしていること
② その残りの期間について、Tax Home(生活の本拠)が外国にあること
③ その残りの期間について、当該外国との間に、より密接な関係(Closer Connection)を有していること
このような申告は、通常、二重ステータス申告(Dual-Status Return)となります。二重ステータス申告では、Standard Deductionを適用できません。また、既婚者の場合であっても、Married Filing Jointlyの申告資格により申告することができず、Married Filing Separatelyの申告資格により申告することとなります。したがって、この例外を選択する場合には、主に次の点を比較する必要があります。
① 帰国後の日本所得を米国の課税対象から除外できるメリット
② Standard Deductionを利用できないデメリット
③ 項目別控除(Itemized Deductions)の適用可能性
④ Married Filing Jointlyの申告資格により申告できないデメリット
⑤ 外国税額控除制度の適用による外国税額控除額
Married Filing Jointlyの申告資格で申告する場合には、配偶者の所得も含め、夫婦双方の全世界所得を米国に申告することとなります。夫婦合算申告により、税率区分、Standard Deduction及び一部の税額控除で有利となる可能性がありますが、帰国後に日本で得た配偶者の所得も米国申告に含める必要があるため、必ずしも夫婦合算申告が有利になるとは限りません。
以上のとおり、実質滞在テストを満たす帰国年度であっても、一定の要件を満たす場合には、帰国後の期間を米国の居住者期間から除外できる可能性があります。ただし、この選択は帰国後の所得を米国の課税対象から除外できる一方、Standard Deductionや申告資格などの面で不利となる場合もあります。したがって、制度を適用できるかだけでなく、適用した場合と適用しない場合の税額を比較したうえで、慎重に判断することが重要です。なお、実際の申告では、滞在日数、ビザの種類、所得の内容、配偶者の状況及び日米租税条約の適用関係を個別に確認する必要があります。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
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この記事の著者
山﨑 剛
税理士法人山田&パートナーズ
税理士2019年、税理士法人山田&パートナーズに入所。国際部に配属。グローバル展開している上場企業、上場子会社といった法人の法人税申告業務、海外に資産を保有する個人の所得税及び相続税申告業務を中心に従事。2020年、大手金融機関に出向、法人オーナーを対象とした事業承継コンサルティングに従事。2024年、米国駐在。
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