1. はじめに
令和8年6月5日に、経済産業省より「ファミリーガバナンス・ガイダンス(以下、「本ガイダンス」といいます。)」が公表されました。本ガイダンスは、ファミリービジネスが長期志向や迅速な意思決定といった強みを活かしつつ、事業承継や経営上のリスクへ適切に対応しながら持続的な成長を実現するための指針として、有識者の議論や経営者へのヒアリングを踏まえて策定されたものです。
本記事では、本ガイダンスを参考にファミリーガバナンスの概要及びその必要性について、簡潔に解説します。
2. ファミリーガバナンス・ガイダンスの概要
(1) ファミリービジネスの特長
日本の全企業のうち9割以上を占めるファミリービジネスは、①長期的な視点、②迅速な意思決定、③日本経済・地域経済の牽引役、④地域社会への貢献という4つの特長・強みを有しており、日本経済や地域社会を支える重要な存在です。
(2) ファミリービジネスにおけるガバナンスの特徴
ファミリービジネスは、「家族」、「所有」、「経営」の3つの要素で特徴付けられ、創業期には、家族・所有・経営が一体化していますが、企業が成長する過程で、家族・所有・経営が徐々に分離し、関係性が複雑化するため、ガバナンス上のリスクが顕在化しやすくなります。

(3) 日本におけるファミリービジネスの現況
日本では、諸外国のファミリービジネスと比較してファミリーの目的・価値観を明文化し、定期的かつ意識的に伝達しているファミリービジネスが少ない等、ガバナンスポリシーが整備されておらず、ガバナンスルールの文書化も進んでいない傾向にあります。
(4) ファミリーガバナンスの重要性及び本ガイダンスの策定趣旨
ファミリー企業における経営者の大きな関心事として事業承継が挙げられます。事業承継は企業の持続的成長の1つの契機になり得ることから、適切な事業承継時期の設定及び後継者の選定は重要となります。
ファミリービジネスが、その長所を活かしつつ、課題となり得るリスクに適切に対処することで、持続的な成長、社会的信頼の醸成、日本経済・地域経済への貢献につなげることを後押しすべく、本ガイダンスの策定に至ることとなりました。
(5) 本ガイダンスの対象
本ガイダンスは、主に非上場の中堅規模のファミリービジネスを念頭に置いています。
ただし、本ガイダンスの内容は、上場・非上場を問わず、また、規模の大小に関わらず、全てのファミリービジネスにとって重要です。
3. 具体的な取組み事例
本ガイダンスでは、具体的な取組事例も公表されております。本記事では、代表的なファミリーガバナンス構築例も紹介します。
|
ファミリーガバナンス構築例
|
|
ファミリー憲章
(ファミリー宣言)
(ファミリー協定)
|
ファミリーの理念、ファミリーのメンバーの行動規範、株式承継の方針等を文書化したもの。ファミリーの一体感の醸成、ファミリービジネスとファミリーの良好な関係維持を目的とする。オタフクHDの佐々木家が代表例として挙げられる。
|
|
株主間契約
|
契約上ファミリーが各自で株式を保有することとしつつ、議決権行使等について一定のルールを定めるもの。契約で自由に定めを置くことができるため、柔軟な設計が可能。
|
|
信託及び社団の活用
|
ファミリーが委託者及び受益者、一般社団法人等を受託者とする信託を組成し、所有する株式を信託譲渡するもの。信託により株式を集約し、株式及び議決権の分散を防止することができる。また受益者が一括して議決権行使するため、迅速な意思決定による企業価値の向上が見込まれる。
|
|
ファミリーオフィスの活用
|
ファミリーオフィス機能をもった新会社の設立、既存の資産管理会社にファミリーオフィス機能を付加するもの。 代表的な機能には以下の通り。
・ファミリー集会の運営事務
・ファミリー資産の運用
・ファミリープランの策定/管理
・ファミリーメンバーの育成
|
|
ファミリー財団の活用
|
安定株主対策、レピュテーション向上等の観点で公益法人への株式寄付を行うもの。ファミリーの社会貢献活動の目標に対して、財団を活用し、ファミリーで協力して慈善活動に積極的に関与する。
|
上記は一例ですが、ファミリーガバナンスの構築方法は多様であり、企業規模や株主構成、ファミリーの価値観等に応じて最適な手法は異なります。
4. おわりに
本ガイダンスにより、ファミリービジネスが、ガバナンスを整備し、持続的な成長・社会的信頼の醸成・日本経済・地域経済への貢献に繋げることで、ステークホルダーから正当に理解され、評価されることが期待されます。また、ファミリー内で早期に理念を共有することで親族間紛争を避け、円滑な事業承継も見込まれます。
今後は、金融機関や各種専門家にも、ファミリービジネスの持続的成長に向けたファミリーガバナンスの提案が求められることになると考えます。
執筆:石井 啓 ishik@yamada-partners.jp