1. はじめに
米国市民、グリーンカード保有者または米国税務上の居住者が、日本の投資信託や資産管理会社の株式を直接または間接に保有している場合、その投資信託や資産管理会社が、米国税務上、受動的外国投資会社(Passive Foreign Investment Company。以下「PFIC」といいます。)に該当する可能性があります。
PFIC税制は、外国法人を利用した米国課税の繰延べを防止することを目的とする制度です。保有する投資商品や株式がPFICに該当すると、通常の株式等とは異なる課税方法が適用され、分配金や譲渡益にかかる税負担が重くなる可能性があります。
また、納税者に米国課税を繰り延べる意図がなく、一般的な資産運用を目的として保有している投資信託であっても、PFICに該当することがあります。PFICに該当する場合には、複雑な所得計算や情報申告が必要となり、不利な課税につながる可能性があるため、注意が必要です。
2. PFIC税制の対象者
PFIC税制は、PFICの株式を直接または間接に保有するU.S. Personに適用されます。U.S. Personには、米国市民、米国税務上の居住者、米国内国法人、米国パートナーシップおよび米国信託等が含まれます。
個人については、日本に居住している場合であっても、米国籍またはグリーンカード保有者である場合には、原則として米国の申告義務を負うため、PFIC税制の適用対象となる可能性があります。
また、米国籍やグリーンカードを有していない場合でも、米国での滞在日数等に基づく実質滞在日数テストを満たし、米国税務上の居住者に該当する場合には、PFIC税制の検討が必要となります。
3. PFICの判定
PFICとは、米国外で設立された法人のうち、原則として次のいずれかの基準を満たすものをいいます。
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❶ Income Test
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その事業年度の総所得の75%以上が、利息、配当、一定の賃貸料、キャピタルゲイン等の受動的所得であること
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❷ Asset Test
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その事業年度に保有する資産の平均価額の50%以上が、受動的所得を生み出す資産または受動的所得を生み出すために保有される資産であること
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受動的所得には、一般に利息、配当、譲渡益、賃貸料及びロイヤリティが含まれます。
判定は、外国法人ごと、かつ原則として各事業年度ごとに行われます。そのため、ある事業年度にPFICに該当しなかった外国法人であっても、所得や資産の構成が変化したことにより、別の事業年度にPFICに該当する可能性があります。
4. PFICの課税方法
PFICの課税方法には、主に次の3つがあります。選択できる方法や有利不利は、投資商品の内容や上場の有無、取得時期、過去の申告状況等によって異なります。累進税率や最高税率により計算するため、通常の株式の配当や譲渡益に比べ、税負担が重くなる可能性があります。
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課税方法
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計算方法
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原則方式 (Section 1291)
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直前3課税年度の平均分配額の125%を超える部分を超過分配とし、 超過分配および売却益を保有期間に応じて配分し、過年度部分について各年の最高税率による税額と利息相当額を計算する方法
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QEF選択
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実際の分配を受けていなくても、PFICの通常所得及び純キャピタルゲインに対する持分相当額を原則として毎年所得に算入する方法
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時価評価選択 (Mark-to-Market)
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市場性のあるPFIC株式について、年末時価までの未実現利益を原則として毎年所得に算入する方法
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5. 米国確定申告
PFICから一定の分配を受けた場合、PFIC株式の譲渡により利益を認識した場合や各種選択を行った場合は、原則として米国の確定申告書にForm 8621を添付して申告する必要があります。米国の個人の確定申告期限は原則4月15日(延長する場合は10月15日)です。
Form 8621については保有するPFICごとに作成するため、複数の投資信託を積み立てている場合には、それぞれの投資信託についてPFIC該当性を確認し、個別にForm 8621を作成する必要が生じることがあります。そのため、保有資産の規模に比して申告事務負担や専門家費用が大きくなるケースもあります。
また、Form 8621により報告すべき情報が適切に提出されていない場合には、米国税務上の時効が通常どおり開始しない可能性があるため注意が必要です。
6. 日本の投資信託等に関する留意点
日本の投資信託や日本籍ETFは、米国から見れば外国で組成された投資主体であり、その保有資産および収益の大部分が、有価証券、預金ならびにこれらから生ずる利息、配当および譲渡益等で構成されることが一般的です。そのため、詳細な構成内容にもよりますが、多くの日本の投資信託や日本籍ETFはPFICに該当する可能性が高いと考えられます。
また、日本の税制上は非課税制度であるNISAを利用して投資信託等を保有している場合であっても、米国税務上は非課税措置が認められるわけではありません。そのため、日本では課税されない所得についても、米国では課税対象となる可能性があります。
7. おわりに
PFIC税制に該当すると、通常の株式投資とは異なる課税方法が適用され、想定以上の税負担や申告事務負担が生じる可能性があります。
米国への赴任や移住、グリーンカードを保有等され米国納税義務者となる方は、保有資産に対してPFIC該当性を確認し、日米双方の税負担、利用可能な課税方法および申告コストを踏まえて、投資商品や保有方針を検討することが重要と考えられます。
執筆:岩﨑 理恵 iwasakir@yamada-partners.jp