税のトピックス

2025年5月19日

  • ニュースレター

上場株式等の物納について

上場株式等の物納について

1. はじめに

相続税は、原則として、相続開始から10か月以内に金銭で納付することになっています。ただし、金銭で納付することが困難で一定の要件を満たしている場合には、「延納」による分割納付も認められており、さらに延納によっても納付が困難な場合には「物納」による納付制度が設けられています。

仮に相続した財産の中で上場株式等の割合が多く、金銭が少ない場合であっても、上場株式等であれば売却による換金化が比較的簡易に行えるため、10か月以内に売却して金銭により相続税を納付するというケースが一般的には多いのではないかと考えられます。

しかし、物納制度の課税上の取り扱いやその特徴から、売却ではなく物納により納付することの方が有利となる場合もあるため、本稿では上場株式等の物納について、その制度の概要や物納を検討した方が良いケースなどについて解説します。

 

2. 物納の要件概要

物納申請のためには以下のような要件を満たす必要があります。

(1) 延納によっても金銭で納付することが困難な金額の範囲内()であること。

令和7年度税制改正において「物納許可限度額の計算の基礎となる延納年数は納期限等における申請者の平均余命の年数を上限とする」等の見直しが行われます。

(2) 物納申請財産が定められた種類の財産で申請順位によっていること。

(3) 「物納申請書」及び「物納手続関係書類」を相続税の納期限までに提出すること。

(4) 物納申請財産が物納に充てることができる財産(物納適格財産)であること。

 

3. 物納できる財産の順位について

物納に充てることのできる財産の種類とその順位は以下の表の通りに定められています(①から⑤の順)。

順位 物納に充てることのできる財産の種類
第1順位 ① 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
② 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位 非上場株式等
④ 非上場株式等のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位 動産

このうち上場株式等については、平成29年度税制改正により第2順位から第1順位に変更されており、上場株式等の物納という選択がより行いやすい制度になっていると言えます。

 

4. 上場株式等の物納が有利となる可能性があるケース

相続財産の中に占める上場株式等の割合が多い場合で、特に以下のようなケースにおいては、物納を検討する余地があると考えられます。

(1) 上場株式等の含み益が大きい場合

相続税の納付のため上場株式等を売却した場合、通常は譲渡益部分(※1)に対して20.315%(※2)の譲渡所得税が生じます。

これに対し、物納の場合は譲渡所得税が非課税とされています。したがって、相続した上場株式等の含み益が大きい場合は譲渡所得税がかからない物納の方が有利となる可能性があります。

※1 相続等により取得した株式等を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合等は、相続税額のうち一定金額を取得費に加算する「相続税の取得費加算の特例」の適用もあります。

※2 所得税、復興特別所得税、住民税を含んだ税率です。

2) 相続発生から相続税の申告期限までに上場株式等の株価が下落した場合

上場株式等は日々の値動きがある資産のため、相続してから実際に売却するまでの間に株価が下落する可能性もあります。その場合、その下落した株価による売却代金から納税資金を捻出しなければならないというケースも起こり得ます。

これに対し、物納の場合は原則としてその上場株式等の相続税評価額で納付されるため、株価が相続発生後に下落している場合は、物納の方が有利となる可能性があります。

3) 流動性が低い銘柄の株式の場合

特に上場会社オーナーが保有する自社の上場株式など、特定の銘柄を集中して保有している場合に生じやすいと想定されますが、流動性が低い銘柄の株式の場合、株価に与える影響等の懸念から短期間で多くの株数を市場で売却することが困難なケースも考えられます。

そのような場合であっても10か月以内に相続税の納付は必要となるため、相続人側で売却することなく株式の現物のまま納付できる物納の方が有利となる可能性も考えられます。

5. おわりに

上記の通り、上場株式等の物納はケースによっては非常にメリットがありますが、そもそも物納が可能かどうかといった要件確認やその申請手続き、物納が認められる限度額の計算等は複雑な制度となっており、実際に物納申請を進める場合には慎重な判断・検討が必要な部分も多くあります。また、近年は物納の申請件数自体が減少しており、物納に関する経験が豊富な税理士も少ないのではないかと想定されます。

弊社では物納の申請・許可実績も複数あり、具体的な相談対応も可能ですので、ご検討の際は弊社担当者までお気軽にお問い合わせください。

 

 

執筆:錦織 博司 nishikoorih@yamada-partners.jp

税のトピックスに戻る