1. はじめに
被相続人が受給していた公的年金(国民年金、厚生年金等)については、その死亡後に一定の親族が遺族年金として受給できます。日本の遺族年金については、相続税の課税対象外とされていますが、アメリカの遺族年金を相続人が取得した場合には、現状その遺族年金の受給権については相続税の課税対象とされるため注意が必要です。
2. 遺族年金を相続した場合の相続税の取り扱い
(1)日本の遺族年金の取り扱い
日本の遺族年金については、相続税法3条で定めるみなし相続財産のうち、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当します。しかし、国民年金法、厚生年金保険法等で遺族年金については非課税とされているため、相続税の課税対象から除かれます。
(2)アメリカの遺族年金の取り扱い
アメリカの遺族年金についても同様に相続税法3条で定める「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当します。ただし、日本の公的遺族年金と異なり、アメリカの遺族年金は他の法律において、その受給権を非課税とする規定はないため、相続税の課税対象となります。
(3)アメリカの遺族年金の受給権の評価方法
相続税法24条の終身定期年金の規定を準用して下記の数値を用いて、相続人が将来にわたって受給すると考えられる遺族年金の総額を現在価値に割り引いた金額を評価額として計算します。
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給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額 |
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取得した相続人の平均余命(厚生労働省作成の完全生命表による平均余命) |
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予定利率 |
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上記3の予定利率による複利年金現価率
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死亡日時点の為替レート
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1年当たりの平均額 × 複利年金現価率 × 為替レート
3. 東京地方裁判所の判断
東京地方裁判所は令和8年2月25日、被相続人の死亡によって配偶者が取得したアメリカの公的遺族年金について、相続税の課税対象とすると判断しました。本判決は、アメリカの遺族年金が相続税法上どのように取り扱われるのかについて裁判所による初めての判断となり、注目すべき判決と言えます。
東京地方裁判所は3点の争点につき、それぞれ次のように判断しています。
(1)「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当し、相続税の対象となるか
東京地方裁判所は、アメリカの遺族年金が米国連邦規則により、被相続人の妻が直接取得した遺族年金を受給する権利であるから、法令に基づき相続人が直接取得する定期金に関する権利と解釈しました。そして、相続税法3条の「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」に該当するとし、相続税の課税対象であると判断しました。
(2)遺族年金の受給権の評価額は正当か
遺族年金の受給権の評価は、相続税法24条を準用して計算(上記2.(3)による計算)された評価額が正当であると判断されました。なお、相続税法24条の「当該契約に係る予定利率」についてはアメリカの社会保障年金信託基金の実効利率を使うことが相当であるとされました。
(3)平等原則に違反するか
原告は、日本の遺族年金は非課税であり、外国遺族年金に課税するのは平等原則に違反すると主張しました。しかし、東京地方裁判所は、様々な性格の国外の遺族年金受給権を国内の遺族年金受給権と同様に一律に相続税の課税財産としないとすることは必ずしも適当でなく、アメリカの遺族年金について相続税を非課税とする規定を設けなかったとしても立法府の裁量の範囲を逸脱・濫用したものではないため、平等原則に違反するとは言えないと判断しました。
4. 留意点
上記の判決は、原告が控訴した場合には高等裁判所等で異なる判断がされる可能性もあります。今後の動向には注目です。
被相続人が生前にアメリカで勤務されていた場合には、日本だけでなくアメリカの遺族年金も受給できる可能性があります。その遺族年金を受給した場合には、現状では相続税の課税対象と解釈されるため、相続財産への計上を忘れずに行う必要があります。
執筆:中村 誠一 nakamurase@yamada-partners.jp