税のトピックス

2026年8月26日

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個人投資家の外貨交換取引に係る為替差益課税

個人投資家の外貨交換取引に係る為替差益課税

最高裁第三小法廷 2026616日判決

1. はじめに

近年、日本の低金利環境を背景に、米ドルなどの高金利通貨による運用への関心が高まっています。円預金より高い利息収入が期待できることから、余剰資金を外貨建てで運用し、海外の銀行や証券会社を通じて外国株式、外国債券、PEファンド、海外不動産等へ投資する機会が拡大しています。

2026年6月16日、最高裁判所第三小法廷は、外国通貨を他の外国通貨や外貨建て有価証券に交換した際に生じる為替差益について、交換時点で所得税法上の雑所得として課税対象になるとの判断を示しました。本判決は裁判官全員一致の意見によるものであり、従来の課税当局の取扱いを支持する内容となっています。

本稿では、本判決の概要及び法的根拠を解説するとともに、個人投資家における税務申告上の留意点及び実務上の対応策について説明します。

2. 事案の背景・事実関係

本件では、日本の居住者である上告人が、スイスの金融機関に資金(105億円)を預託し、投資一任契約に基づき資産運用を委任していました。当該金融機関は、運用対象資産である外国通貨を用いて、他の種類の外国通貨や外貨建て有価証券を取得する取引を行っていましたが、上告人はこれらの取引から所得が生じていないとの前提で、平成26年分及び平成27年分の所得税の確定申告を行いました。これに対し、税務署長は当該取引により生じた円換算ベースの為替差損益は雑所得に該当すると判断し、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。

3. 法的争点

本件の争点は、外国通貨により他の種類の外国通貨又は同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引が行われた場合に、その時点で所得税法第36条第1項に規定する「収入すべき金額」が発生し、為替差益に係る所得が実現したと認められるか否かにあります。

4. 判決の結論

最高裁は、居住者が、外国通貨を用いて他の種類の外国通貨又は同一の外貨建て有価証券を取得した場合には、取得時における取得資産の円換算額が所得税法上の「収入すべき金額」に該当し、その円換算額から支払に用いた外国通貨を得るのに要した金額等を控除した金額が当該取引に係る所得の金額になると判断しました。その結果、外貨交換取引又は外貨建て有価証券の取得時において為替差益が実現し、雑所得として課税した税務当局の処分は適法であるとして、納税者の主張を退けました。

5. 税務申告時の注意点

従来、外貨建資産に係る為替差損益は、外貨を日本円に換金した時点で初めて実現すると誤解することも少なくありませんでした。今後は、米ドルからユーロや英ポンドへの交換のみならず、米ドルを用いて米ドル建ての米国株式や外国債券を取得する場合においても、当該米ドルの取得時と比較して円安が進行し、円換算価値が上昇していれば、為替差益が実現し課税対象となる点に留意が必要です。

国税庁が従前から示していた「保有する外国通貨を他の外国通貨に交換した場合の為替差損益の取扱い」について、今回、最高裁がその取扱いを支持したことから、今後は海外金融機関や海外証券口座を利用した外貨建資産等に係る為替差益について、税務調査において申告漏れが指摘されるケースが増加する可能性があります。

6. 課税時点の図解説明

1】 外国通貨から他の種類の外国通貨へ交換した場合

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所得認識のタイミング

外貨A(USD)を外貨B(EUR)へ交換した時点において為替差益が実現し、取得時レート(100円/ドル)と交換時レート(150円/ドル)との差額が課税対象になります。

 

2】 外貨で外貨建て有価証券を購入した場合

所得認識のタイミング

外貨Aで米国株式・外国債券等を購入した時点において為替差益が実現し、取得時レート(100円/ドル)と購入時レート(120円/ドル)との差額が課税対象になります。

7. 実務上の対応策

外貨建て取引を頻繁に行う場合、特に海外金融機関や証券会社による一任運用、多通貨ポートフォリオを利用している場合には、投資家の想定よりも早い段階で為替差益が課税対象となる可能性があります。そのため、外貨取引については、以下の事項を適切に管理することが重要です。

① 外貨取引の履歴を全件記録する(日付・通貨・レート・数量)。
② 外貨取引ごとに取得時の円換算額を算出し管理する。
③ 複数通貨や証券口座を保有している場合は、通貨別・口座別に損益を集計する。
④ 他の雑所得と合算して所得金額を計算するため、為替差損が生じた場合も集計する。
⑤ 過去の外貨交換取引等で未申告の為替差益がある場合には、自主的な修正申告の要否を検討する(加算税等の軽減につながる可能性があります)。

 

執筆:全 海玉  quanh@yamada-partners.jp

 

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