税のトピックス

2022年2月21日

  • 国際課税

国税庁、「令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」を発表

国税庁、「令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」を発表

 国税庁は、ホームページに「令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」を発表しました。国税庁は、企業や個人の海外取引を巡る課税逃れを防ぐため、租税条約等の規定に基づき、諸外国と情報交換を行っており、現在、日本の情報交換ネットワークは149の国・地域をカバーするまで拡大しています。

 情報交換には主に、「要請に基づく情報交換」、「自動的情報交換」、「自発的情報交換」の3つの類型があります。

 このうち、「要請に基づく情報交換」は、個別の納税者に対する調査等において、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、条約等締結相手国・地域の税務当局(外国税務当局)に必要な情報の収集・提供を要請するものです。発表によると、令和2年度に国税庁が外国の税務当局に要請した情報交換の件数は638件で、前年度に比べ4.1%増加しています。地域別にみると、アジア・大洋州の国・地域向けの要請が510件と、全体の8割近くを占めています。

 

◆「要請に基づく情報交換」の活用例
 【外国税務当局から受領した情報の活用例】
 内国法人Dの法人税調査において、法人DがX国の複数の法人に対して、多額の不動産開発に関するコンサルタント料を計上している事実を把握した。当該コンサルタントに関する契約書に記載されている相手先と、請求書の発行元や支払先が異なっていたほか、コンサルタント料総額の約半分が長期間未払いとなっているなど不審点が見られたことから、X 国税務当局に対して、当該コンサルタント取引に関する資料の提供を要請した。
  その結果、架空の契約書を用いて、役務提供の事実がないコンサルタント料を計上していた事実が判明した。
(出典:国税庁「令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」) 

 

「自発的情報交換」は、国際協力の観点から、自国の納税者に対する調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供するものです。発表によると、令和2年度に国税庁が外国の税務当局から提供された件数は20,351件となり、特定の国から大量の情報を受領したため、前年度(394件)から大幅に増加しています。

 「自動的情報交換」は、国際的な脱税や租税回避行為に対処するために、自動的に情報を交換するものです。国税庁では、CRS(CommonReporting Standard:共通報告基準)に基づく非居住者金融口座情報(CRS 情報)やCbCR(Country by Country Report:国別報告事項)の自動的情報交換を開始しています。

 CRS情報の自動的情報交換においては、日本の非居住者に係る金融口座情報約65万件を70か国・地域に提供した一方、日本の居住者に係る金融口座情報約191万件を87か国・地域から受領しています。国税庁によると、諸外国の税務当局から受領したCRS 情報は、海外にある金融資産及びそこから生じる所得の把握などに効果的であり、国外送金等調書や国外財産調書といった各種調書や既に保有している他の資料情報等と併せて分析を行った上で、課税上問題があると見込まれる納税者を把握し、税務調査を実施しているそうです。

 

◆「CRS情報の自動的情報交換」の活用例
 受領した CRS 情報から、X 国所在の法人甲の金融機関の口座及び当該法人の実質的支配者が相 続人 A であることを把握した。当該法人について登記情報を確認したところ、相続発生前に、当該 法人の出資持分の名義が被相続人 B から相続人 A に変更されていた事実が判明した。
 調査の結果、 被相続人 B は、当該法人の出資持分の名義変更後も、当該法人名義での資産運用を継続していたことなどから、当該出資持分は被相続人 B の相続財産であったことが判明した。
 また、相続人 A は、 当該出資持分が相続財産であることを認識しながら、相続財産から意図的に除外し、相続税の申告 を行っていなかったことが判明した。
 さらに、当該法人の所得に関し、外国子会社合算税制による 被相続人 B の雑所得も申告漏れとなっていることが判明した。
(出典:国税庁「令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」)

 

 また、国税庁では、このほか従来から法定調書より把握した非居住者等への支払等(利子、配当、不動産賃借料、無形資産の使用料、給与・報酬、株式の譲受対価等)に関する情報を、支払国の税務当局から受領国の税務当局へ一括して送付しています。この情報を申告内容と照合し、海外投資所得の申告漏れ等の把握に活用しているそうです。発表によると、令和2年度に国税庁が外国の税務当局から提供された件数は約11万2千件(前年比△28.7%)となっています。

 

◆「法定調書情報の自動的情報交換」の活用例
  X 国の税務当局から提供された資料を基に、日本の居住者 C の申告内容を検討した ところ、X 国の Y 銀行に預け入れた預金に係る受取利子が日本で申告されていなかったことを把握した。
(出典:国税庁「令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」)

 

 情報交換のネットワークも広がっており、今後も、ますます外国税務当局との情報交換が進みそうです。

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