海外デスクレポート

2026年10月14日

中国の給与・残業代の考え方 (中国)

中国の給与・残業代の考え方 (中国)

1. はじめに 

中国現地法人にとって、給与計算や残業代の処理は日常的な業務です。しかし、退職時や労働仲裁では、未払賃金は争点になりやすく、日常の運用と記録の不備が会社のリスクに直結します。日系企業でよくある誤解として「管理職に残業代は不要」「営業職の勤務時間は管理しなくてよい」「残業代は基本給だけを基準に計算する」「不定時労働制は社内規程に定めれば導入できる」といった日本の風習に基づく理解が見受けられます。本稿では、中国における給与・残業代の基本ルールを整理した上で、管理職の取扱い、不定時労働時間制、勤怠記録・証拠管理の実務ポイントを解説します。

2. 給与・労働時間制度の全体像

中国では、労働者が提供した労働に対し、使用者が賃金を支払うことが基本です。

労働契約には、労働報酬、勤務時間、休息・休暇などを明記しなければなりません。また、給与制度や勤務時間制度の制定・変更は、従業員の重要な利益に直接関わるため、法令に則った民主的手続及び公示・告知を行う必要があります。給与規程だけを整えていても、労働契約、就業規則、給与明細、勤怠記録の内容が一致していなければ、紛争時に会社の主張を十分に裏付けられないおそれがあります。

労働時間制度は標準労働時間制が原則であり、業務の性質に応じて総合計算労働時間制または不定時労働時間制が認められます。日本の管理監督者制度や裁量労働制に似ている面もありますが、中国では行政許可の有無、対象職位、実際の勤務管理、地域ごとの運用が重視されます。

制度 基本的な考え方 実務上の留意点
標準労働時間制 1日8時間、週40時間を基本とする通常の勤務制度。 時間外、休息日、法定祝日の勤務について、法定基準に従い残業代又は代休を処理する。
総合計算労働時間制 週、月、四半期、年などの周期で労働時間を総合計算する特殊労働時間制度。 行政許可、周期管理、総労働時間管理が必要。上海では勤務・休息計画等の提出が求められる。
不定時労働時間制 標準労働時間による管理が難しい上級管理職、外勤、営業職などに適用できる制度。 役職名以外に、行政許可、対象職位、実態、休息確保、決定の公示が重要となる。

3. 残業代の基本ルールと計算方法 

標準労働時間制では、法定労働時間を超えて従業員を勤務させた場合、残業の種類に応じた割増賃金を支払います。通常は、月額の計算基数を日額、時間額に換算し、残業時間と割増率を掛けて計算します。実務上は、月平均賃金計算日数21.75日を用い、「月額計算基数 ÷ 21.75日 ÷ 8時間」で時間単価を算出する方法が一般的です。ただし、計算基数の取扱いは地域によって異なるため、所在地の規定のほか、労働契約、給与規程、給与明細、司法・仲裁の実務も確認する必要があります。

残業区分 法定基準 実務上の処理
平日の時間外労働 賃金の150%以上 残業申請、上長の承認、勤怠記録、給与明細への反映を一連の記録として残す。
休息日の労働

代休を手配できない場合、賃金の200%以上

代休を手配する場合は、代休日、取得記録、本人確認を明確にする。
法定祝日の労働 賃金の300%以上 代休を付与しても、300%以上の割増賃金の支払義務は免れない。

休息日と法定祝日の労働では、代休の取扱いが異なる点に注意が必要になります。休息日勤務については、適切に代休を付与すれば、200%以上の割増賃金を支払わない取扱いが可能です。一方、法定祝日勤務については、代休を付与しても、原則として300%以上の割増賃金を支払う必要があります。休日勤務、振替出勤、代休のいずれとして処理したのかを、タイムカード、申請・承認記録、従業員の確認記録等により説明できる状態にしておく必要があります。

4. 残業代計算基数の実務リスク

残業代の計算基数について労働契約や集団契約に明確な定めがある場合、その内容が判断の中心となります。ただし、最低賃金や地域の規定、実際の賃金構成とかけ離れていれば、紛争時に契約どおりの取扱いが認められないこともあります。たとえば、基本給を低く抑え、職務手当、能力手当、交通・通信補助、食事補助などを多く支給している場合、毎月固定で支給され、労働の対価としての性格が強い項目は、計算基数に含まれると判断される可能性があります。

給与項目は名称だけでなく、支給の趣旨、支給条件、月々の変動などを踏まえて判断する必要があります。あわせて、個人所得税及び社会保険料の計算に用いる基数との関係についても、合理的に説明できるかを確認しておくことが重要です。労働契約には月額賃金と残業代の計算基数を明記し、給与規程では計算基数に含める項目と含めない項目を定めた上で、従業員への公示・告知及び受領確認の記録を残しておく対応が望ましいです。また、給与明細の金額と実際の銀行振込額を一致させておくことも、労働仲裁において会社の説明を裏付ける重要な資料となります。

5. 管理職・総経理・営業職への残業代 

中国では、管理職というだけでは、残業代の支払対象から除外されません。「部長」「工場長」「財務責任者」「営業責任者」などの肩書があっても、毎日決まった時刻に出退勤し、上長の指示や黙認のもとで時間外・休日勤務をしていれば、標準労働時間制に基づく残業代を請求される可能性があります。

残業代の支給要否の判断に当たっては、役職名よりも、担当業務、経営判断への関与、人事・採用・評価に関する権限、勤務時間を本人が調整できるか、会社が出退勤をどの程度管理しているかといった実態を確認します。上級管理職、外部勤務の従業員、営業職などについては、不定時労働時間制の対象となり得ますが、実際に適用するには、対象職位について行政許可を取得していることが前提となります。「管理職手当を支給している」「年俸制を採用している」という事情だけで、残業代の支払リスクを回避できるわけではありません。

6. 不定時労働時間制の導入と留意点 

不定時労働時間制は、標準労働時間による管理が難しい一定の職位を対象とする特殊労働時間制度です。会社が社内規程に定めるだけでは導入できず、業務の性質、対象職位、実際の勤務状況を踏まえ、所在地を管轄する人力資源社会保障部門の行政許可を受ける必要があります。あわせて、対象職位を労働契約若しくは補充合意、就業規則、給与規程などに適切に反映し、従業員への説明記録を整えておくことが重要です。

許可を取得した後も、許可された職位以外には適用せず、許可決定を社内で公示し、新入社員にも知らせる必要があります。休息・休暇の確保や過重労働を防ぐための措置も欠かせません。許可があっても、実際には固定時間で厳格に出退勤を管理していたり、対象外の従業員に適用していたりすると、紛争時に制度の適用が否定されるおそれがあります。

7. 勤怠記録・給与記録の管理

未払残業代をめぐる争議では、従業員が残業の事実を主張し、会社が勤怠記録、残業申請・承認記録、業務指示、給与明細、銀行振込記録などを用いて反論することになります。残業申請制度を設けていても、上長が実際に時間外勤務を指示し、又は黙認していた場合には、メール、WeChat、業務システムのログなどに基づいて残業が認定されることがあります。

このため、労働契約の勤務時間条項、就業規則の残業申請・承認ルール、給与規程の計算基数、勤怠システム、給与明細を相互に整合させて管理する必要があります。退職時には、最終給与、未払残業代、未消化の年次有給休暇、賞与、代休残高を一覧で確認し、本人の確認記録を残しておくことが重要です。通常の給与計算においても、毎月の勤怠表、残業申請・承認記録、給与計算表、給与明細、銀行振込記録が一致しているかを確認することで、後日の紛争予防につながります。

8. まとめ

中国における残業代管理では、制度上の定めだけでなく、実際の勤務管理と証拠書類との整合性が重要です。特に、①残業代の計算基数、②管理職・営業職の取扱い、③特殊労働時間制度の行政許可、④勤怠・給与記録の整合性について、定期的に確認することが求められます。

具体的な対応は、会社の所在地、労働契約・就業規則の内容、対象従業員の職位、実際の運用によって異なります。制度の導入・変更や紛争対応など重要な判断を行う際は、現地の最新規定及び運用を個別に確認する必要があります。

 


  • 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
  • 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
  • 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
  • 管傑

    この記事の著者

    管傑
    亚玛达商务咨询(上海)有限公司 法律顧問
    中国弁護士有資格者/法律修士

    中国ローカル法律事務所パートナーを経て2024年より現職。日系企業の法務・コンプライアンス、M&A、労働紛争、仲裁・訴訟対応で豊富な実績を持つ。亚玛达商务咨询(上海)有限公司では組織再編、進出・撤退支援、内部統制、不正調査等のコンサルティング業務においてリーガルアドバイザーを務める。
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