1. はじめに
企業の研究開発投資を維持・拡大することにより、イノベーション創出に繋がる研究開発等を促し、日本の成長力・国際競争力を強化することを目的として、企業が研究開発を行っている場合に、法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合(1%~14%)を乗じた金額を控除できる研究開発税制が整備されています。
近年、多くの改正が入り、その控除額や範囲が変化していますが、令和5(2023)年4月1日以後に開始した事業年度から適用される研究開発税制のうち、特別試験研究費に係る税額控除(オープンイノベーション型)の試験研究費の範囲が見直し拡大され、特別試験研究費に係る税額控除(オープンイノベーション型)を活用する場面も増えてきていると聞いています。 ただ、この制度を適切・円滑に利用するための具体的な手続きを理解するには、特別試験研究費税額控除制度ガイドラインが必須となります。
2. 特別試験研究費の概要
(1)概要
特別試験研究費税額控除制度とは、大学や国の研究機関、または他企業等との共同研究及び委託研究等に要した試験研究費の額に一定の控除率(20%、25%または30%)を乗じて計算した金額を、当該事業年度の法人税額から控除できる制度です。なお、その上限額は、総額型税額控除制度による控除額とは別枠で、法人税額の10%相当額となります。また、制度としては、適用を検討する納税者自身で、特別試験研究費税額控除の対象とする費用が、大学等との共同試験研究・委託試験研究によるものであることを、税理士等の第三者と共同試験研究・委託試験研究の相手方による確認手続きを経て、申告することになります。
税額控除限度額 (いずれか小さい額)
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ア |
特別試験研究費の額×一定割合(注) |
① 国の試験研究機関、大学等との協同研究費又は委託研究費:30% |
② 新事業開拓事業者等との共同研究費又は委託研究費:25% |
③ ①及び②以外の特別試験研究費:20% |
イ |
法人税額×10% |
(2)特別試験研究費の額(法第42条の4第19項第10号)
試験研究費の額のうち国の試験研究機関、大学その他の者と共同して行う試験研究(共同試験研究)、国の試験研究機関、大学その他の者に委託する試験研究(委託試験研究)、中小企業者からその有する知的財産権の設定又は許諾を受けて行う試験研究、新規高度研究業務従事者に対して人件費を支出して行う試験研究その他の政令で定める試験研究に係る試験研究費の額として政令で定めるものをいいます
(3)特別試験研究費税額控除制度 ガイドライン(令和5年度)経済産業省
当該制度を適切・円滑に利用するための具体的な手続のための特別試験研究費税額控除制度ガイドラインが財務当局と協議の上、経済産業省名で策定されています。
3. 特別試験研究費の認定・確認
(1)背景
特別試験研究費の税額控除の重要な目的の1つに、第三者との共同試験研究・委託試験研究を促進することがあります。これを実現するため、通常(一般試験研究費の額に係る税額控除制度)より高い税額控除率で、法人税額の一定割合を法人税から控除することができる制度となります。したがって、適用に当たっては、自社単独で行う研究開発行為ではなく、寄附や外注等でもない共同試験研究・委託試験研究に要した費用であることを証明する必要があります。この証明は、法令上は、共同試験研究・委託試験研究に係る契約書や協定、覚書等のエビデンスによる証明に加え、関係者による確認(国の研究機関との共同試験研究・委託試験研究の場合は相手方の研究機関の長の認定、大学・民間企業等との共同試験研究・委託試験研究の場合は相手方及び第三者(税理士等)による確認)を必要としています。
(2)第三者による確認(大学等との共同研究の場合)
特別試験研究費の額については、その額が、関係法令に照らして正当であり、当該共同試験研究に要した費用であって申告法人が当該契約又は協定に基づいて負担したものに係るものであることにつき、第三者(税理士等)による確認を受ける必要があります。
(3)大学等の確認
特別試験研究費の額が、当該共同試験研究に要した費用であって、申告法人が当該契約又は協定に基づいて負担したものに係るものであることにつき、書類により大学等の確認を受けます。
実務の運用においては、共同試験研究に係る自社外試験研究費/自社内試験研究費に関して「第三者による確認書」本体及び別添資料等を作成し、共同試験研究の相手方たる大学等に当該報告書やその別添資料の記載内容について、共同試験研究を行った立場から確認しても差し支えないとされています。
(4)確定申告書への添付
確定申告書に上記の第三者及び大学等による確認を受けた書類の写しの添付が必要とされます。
執筆:徳山 義晃 tokuyamay@yamada-partners.jp