1. はじめに
医療機関の経営者は、一般の事業会社の経営者と同様に年々高齢化(診療所経営者62.5歳、病院経営者64.9歳、「厚労省データ」)が進んでおり、多くの医療機関の経営者が出口を検討する時期にさしかかっています。医療機関の出口として、医業承継、第三者承継(M&A)の順番で検討し、どちらにも至らない場合には事業の廃業を選択することになります。実際に、全国の医療機関の開設廃止の数は、開設数も増加していますが、同様に廃止数も増加している状況です。
そこで、今回は医療法人が解散する場合の、手続きと税務上の主な留意点について整理します。

2. 医療法人の解散
医療法人を解散する場合、事業を休止又は廃止の上、医療法人を解散しますが、医療法人の解散から清算業務までの完了をもって、医療法人は消滅することになりますが、解散の意思決定から最終清算結了まで、1年~1年半程度かかりますので、計画的に進めることが大切になります。
(1) 医療法人の解散事由、手続き
医療法人は、定款や医療法に定められている解散事由により手続きが異なっているため、解散事由とその手続き、スケジュールを行政に確認しながら進めることが大切になります。
解散事由のうち、「1. 定款で定めた解散事由の発生」「5. 社員の欠亡」は、都道府県等への届出による解散、「3. 社員総会の決議」は認可による解散の手続が必要です。
解散事由、手続き
| |
項目 |
手続き |
| 1 |
定款(寄附行為)に定めた解散事由の発生 |
届出による解散(都道府県知事等) |
| 2 |
目的たる業務の成功の不能 |
認可による解散(都道府県知事等) |
| 3 |
社員総会の決議(社団たる医療法人のみ) |
認可による解散(都道府県知事等) |
| 4 |
他の医療法人との合併 |
認可による解散(都道府県知事等) |
| 5 |
社員の欠亡(社団たる医療法人のみ) |
届出による解散(都道府県知事等) |
| 6 |
破産手続開始の決定 |
破産手続き(裁判所) |
| 7 |
設立認可の取消し |
設立認可取消(都道府県知事等) |
主な解散手続きのフローチャート

(2) 税務上の留意点(残余財産の取扱いと役員退職金)
① 持分あり医療法人
医療法人が解散する場合、通常役員に対して解散事業年度やその前年度に役員退職金を支給することになります。他方、持分あり医療法人が解散した場合には、清算事業年度に、債権者に対する債務を弁済した後に、残余財産が残っている場合には、出資割合に応じて出資者に残余財産が分配することになります。
つまり、出資者である役員は、役員退職金(退職所得)として受け取るか、残余財産の分配(配当所得)として受け取るのか、受け取り方により税金が異なり、結果手取額に違いが生じます。また、役員退職金は不相当に高額な金額を除き、損金に算入されますが、残余財産の分配は剰余金の配当であるため、損金には算入されず、医療法人側においても税務上の取扱いが異なります。したがって、役員退職金として支給するか、残余財産として分配するか、個人と法人両方の課税関係を考慮し、判断する必要があります。
② 持分のない医療法人
持分のない医療法人の場合も、持分のある医療法人と同様に役員に対する退職金を支給することは同様ですが、「持分のない医療法人」が解散する場合、残余財産は国等に帰属することになりますので、この点は「持分のある医療法人」に違いが生じます。
3. おわりに
医療法人を解散する場合は、清算事業年度における欠損金の活用や欠損金の繰戻還付の特例等の特例の適用等税務上の留意点のほか、従業員に関する手続き、医療機器の廃棄・売却や、診療録や会計書類の保存義務等様々な項目に留意して進める必要があります。
執筆:寺尾 絵里 teraoe@yamada-partners.jp