1. 経緯
2025年11月13日(木)開催の政府税制調査会において、相続税・贈与税の計算における貸付用不動産の財産評価の問題について、議論が行われました。
国税庁は令和4年最高裁判決後、「居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)」について財産評価基本通達を改正しましたが、その対象外である「一棟所有の賃貸用マンション」などで、市場価格と通達評価額との差を利用した評価圧縮が行われているとして、問題視しています。今後、財産評価基本通達の改正が行われる可能性があり、動向を注視する必要があります。
2. 賃貸用不動産を利用した事例(国税庁公表資料)
(1) 相続開始直前に一棟賃貸マンションの駆け込み取得を行ったケース
相続開始直前において、通常では考えられない多額の借入を行い、市場価格と通達評価額との差を利用して、大幅に相続税額を減額して申告した事例

概要
- 被相続人は、相続開始の約2年8か月前に主宰法人から22億円を借り入れて、一棟賃貸マンションを21億円で購入
- 相続人らは、その賃貸用マンションを評価通達に基づき4.2億円と評価
- 相続人らは、借入金残高22億円を債務控除し、相続税額を4.4億円(7.9億円減額)として申告
● 各価額の比較

出典:2025年11月13日 税制調査会 第4回経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合 国税庁説明資料より 筆者一部加筆
(2) 不動産小口化商品の贈与により相続税対策を行ったケース
実態は現金贈与と大差ないにも関わらず、評価の仕組みを利用した事例
具体的には、現金ではなく不動産小口化商品を贈与し、市場価格と通達評価額との差を利用して贈与税額を大幅に圧縮し、受贈者は贈与後すぐに、不動産小口化商品を市場に売却して現金を受領した事例

概要
- 贈与者は、甲社(販売会社)から不動産小口化商品(信託受益権)を3,000万円で購入
- 贈与者は、受贈者にその信託受益権を贈与
- 受贈者は、その信託受益権を評価通達に基づき480万円と評価(贈与税額を1,146万円減額)
- 受贈者は、その信託受益権を甲社に売却(この売却時、取得価額とほぼ同額で現金化)
出典:2025年11月13日 税制調査会 第4回経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合 国税庁説明資料
3. 直近の動きについて
2025年11月下旬に開催された自民党税制調査会において、貸付用不動産の評価について、①被相続人・贈与者が相続開始・贈与前5年以内に対価を伴う取引により取得した貸付用不動産については、通常の取引価額に相当する金額により評価 ②商品として小口化された貸付用不動産については、通常の取引価額に相当する金額(売買実例価額等を基に算定)により評価、とする具体的な貸付用不動産の評価方法の見直し案が議論されています。
4. 今後の動向について
「居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)の評価」については、2022年12月中旬公表の令和5年度税制改正大綱において、評価方法について検討する旨が記載され、翌年の夏にパブリック・コメントを経て、財産評価基本通達が改正されました。
貸付用不動産についても、同様のプロセスで改正されると想定されます。早ければ2025年12月中旬公表予定の令和8年度税制改正大綱に方針が記載され、2026年にパブリック・コメントを経て財産評価基本通達の改正が行われる可能性があるため、引き続き注視が必要です。
執筆:清水 秀宝 shimizuh@yamada-partners.jp